10月14日は「鉄道の日」。1872年(明5)のこの日、新橋-横浜間に日本初の鉄道が開通したことを受け、制定された。開業150年を記念し「ぶらり鉄道」と題して、ローカル列車を紹介する。第1回は静岡県富士市内を走る岳南電車。

特別ダイヤで巡る夜景電車が人気だ。工場群を走るローカル列車で、夜景観光コンベンション・ビューローが制定する「日本夜景遺産」にも認定されている。全席座席指定の貸し切り「ナイトビュープレミアムトレイン」に乗った。

使用車両は「9000形」で、同社の代表色「インターナショナルオレンジ」が車体カラーだ。富士急行から譲り受けた「1000系」車両を改良し、2018年11月に「旧5000形」の復刻デザインとして営業運転を開始した。

発着駅である吉原駅を出発し、折り返しの岳南江尾駅に向かう。車内は照明が落とされて、真っ暗となる。うっすらと紙灯籠が光り、情緒的な雰囲気を醸し出す。路線は全長9・2キロメートル。車内に静かに響く夜景観光士の案内とともに、幻想的な工場夜景の中を進む。ライトアップされた建物が浮き上がり、高くそびえる煙突から流れる白い煙が、暗闇に漂う。

岳南江尾駅で約20分間、停車した。水面に映る電車を演出し、レトロな駅舎や竹灯籠を楽しむことができる。折り返して岳南富士岡駅に進む。同駅には21年8月にオープンした「がくてつ機関車ひろば」がある。昭和初期に製造された電気機関車や貨物営業時代の機関車が展示されている。ここでも約20分間停車するので、歴史を存分に感じることができる。

比奈駅-岳南原田駅間では、徐行運転される区間がある。工場のパイプラインの下をくぐる、この旅のハイライトになる場所だ。ゆっくりと走ってくれ、少しだけ停車してくれるので、写真や動画をたっぷりと撮影することができる。張り巡らせたパイプラインが、テレビアニメで見た宇宙の要塞(ようさい)のような感覚に陥る。

最終停車駅の本吉原駅は、初代の吉原駅。歴史が深く、同社の本社もある。プラットホームと独特のキノコ型のホーム上屋が21年6月、国の「登録有形文化財」として登録された。駅のすぐ脇にあるライトアップされた製紙工場が、さらに特別感を与えてくれる。

余韻に浸りながら、終着駅の吉原駅へ。到着すると、車内に大きな拍手が沸き起こった。【撮影と文・井上学】