「社内承認プロセスに不備」があったとして回収が決定した小説「中野正彦の昭和九十二年」の著者である作家の樋口毅宏氏が、同小説に込めた思いをあらためて説明した。

樋口氏は17日、ツイッターを更新。文芸評論家の吉田健一が生前に「理解できない敵がいて、その敵のことをよく理解するためには、まずはその敵の気持ちになって考えてみることです」という旨の言葉を残していたとして、「これが本書の執筆の動機でした」と明かした。韓国のカルチャーに明るく、かつて韓流映画の専門雑誌で編集長も務めていた樋口氏は、差別について深く考えるようになったらしい。「どうしたらいいのか。どうすべきか。私は作家なので、小説で世間に伝えることにしました」と作品執筆の背景を説明した。

「おそらく一部には、所謂『差別用語』の箇所のみを抜き出して、『これは差別だ!』と主張する方たちがいるでしょう」とした上で、「しかしそれでは表層的なものに目を奪われ、本質を誤ります。通読して頂ければわかりますが、本書はあからさまなヘイト本、歴史捏造本とは程遠いものです」とヘイト本ではないことを明言。「私が普段どんなツイートをしているか。RTとお気に入りを遡って見てもらえば、差別を憎んでいることがお分かり頂けるでしょう」と訴え、「今後、献本した方たちが読んで、世間に感想を伝えることで、イーストプレスが方針を改めてくれることを期待します。私は本の力を、自分の小説の力を信じます」と願いをつづっている。

「中野正彦の昭和九十二年」は19日に発売予定だったが、出版社イースト・プレスは回収を発表。一部書店には搬入済みだった。安倍晋三元首相を「お父様」と慕う主人公が「差別は悪ではない」と特定の民族を侮蔑する言動を繰り返す描写があった。