将棋の藤井聡太棋王(竜王・名人・王位・叡王・王座・王将・棋聖=21)が同学年の伊藤匠七段(21)の挑戦を受ける第49期棋王戦コナミグループ杯5番勝負第1局が4日、富山県魚津市の新川文化ホールで行われ、互いの玉が相手陣内に入って捕まらなくなり、129手までで持(じ)将棋(引き分け)となった。

藤井は16年プロ入り後、持将棋は公式戦427対局目で初めて。開幕局は珍しい引き分けスタートとなり、第2局は24日に石川県金沢市の「北國新聞会館」で行われる。

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対局場となった新川文化ホール。雪化粧した北アルプスの立山連峰「毛勝山」が正面に大きく見える。藤井は棋王初防衛、伊藤は初タイトル獲得を目指す同学年のライバル対決。午後5時35分、伊藤が「持将棋ですかね」と声を出すと、藤井は「はい」と応じ、“ドロー”となる持将棋が成立した。

「こちらの工夫が足りず、結果として『伊藤七段の手のひらの上』というような将棋になってしまった」。珍しく藤井が悔しさをにじませた。先手番は圧倒的な強さを誇る絶対王者に対し、伊藤が「負けない作戦」を準備してきた。

先手の藤井が得意の角換わりを選択すると、両者とも研究の範囲内だったのか、午前中で85手まで進む異例のハイペース。両者の玉が相手陣内を目指す相入玉模様となった。「こちらの玉が先に上部に(上がったことが)こちらの主張かなと思っていたが、うまく後手に手厚い陣形を作られてしまった。少し深い認識が必要だった」。

終盤は駒取り合戦に突入。そこに至るプロセスでは水面下で激しい“攻防”もあった。公式戦初の持将棋に「まったく意識はしていなかった」。最後まで相手玉を寄せることをあきらめていなかった。

“開幕局ドロー”でスコアは両者ともに「0勝0敗1分」。今期の棋王戦5番勝負は魚津の後、石川・金沢、新潟と能登半島地震で被害を受けた地域を巡る。新川文化ホールは能登半島地震で、玄関ロビーの床面約30メートルにわたって亀裂が入り、敷地内のタイルがせり上がり、破損した。

「被災地の方にパワーを感じてもらえるような将棋を」。立山連峰がデザインされたネクタイを着用して富山入りした藤井は、「金沢対局」へ「しっかりと準備したい」と気持ちを切り替えた。【松浦隆司】

○…藤井の勝負メシは「紅ずわいがにのカレー」。魚津産の紅ずわいがにが使用された。伊藤は「松花堂弁当」を注文。富山牛ローストなど、こちらも地元の食材がメインだ。昼食を手掛けた「ホテルグランミラージュ」の楞谷(かどたに)貴志総料理長は「地元の食材を多く使うことで、被災した北陸を応援したい」。1日も早い復興の願いを込めた「応援メニュー」だった。

◆持将棋 お互いの玉が敵陣3段目以内に入り、どちらも相手玉を詰ます見込みがなくなった局面を指す。玉を除く大駒(飛車と角)1枚を5点、小駒(金、銀、桂、香、歩)1枚を1点と数え、双方の点数がそれぞれ24点以上ある場合、両対局者の合意により成立する。公式戦では指し直し、タイトル戦では「引き分け」となる。棋王戦では88年の第13期第3局(高橋道雄棋王対谷川浩司王位)以来。タイトル戦開幕局としては91年の第4期竜王戦(谷川竜王対森下卓六段)以来。直近では20年7月の第5期叡王戦第3局(永瀬拓矢王座対豊島将之竜王・名人、段位)以来(肩書はいずれも当時)。