シャフリヤールが外から差し切った、と思った瞬間でした。スッと内からヴェラアズールが抜けてきました。いったいどこから? そんなゴール前でした。

ぜひ、正面からのパトロールビデオを見てもらいたいと思います。直線を向いた時、ヴェラアズールの前はずらっと壁です。1000メートル通過が61秒1というスローになり、道中からずっとだんご状態。中団馬群の後方で馬をじっと我慢させていたムーア騎手でも、果たしてどうさばくかと思案したかもしれません。ところが、さすが世界のトップ騎手です。ほとんど他馬の邪魔をすることなく、開いたところ、開いたところをスッ、スッと抜けてきます。よく使われる表現ですが、まさにマジックでした。

そのエスコートに応えた馬も大したものです。一瞬の脚が持ち味とはいえ、1回ではなく、間を割るたびに何度となくその脚を使っています。もともとダートで走っていた馬が、芝転向からわずか6戦でジャパンC制覇。見事です。私が管理したマヤノトップガンも骨りゅう(こぶ状の隆起)の関係でデビューからダートを使いましたが、いずれは芝でと思っていました。渡辺師をはじめ、ヴェラアズール陣営もそう思っていたのかもしれません。化骨が進むまで無理をさせなかった我慢が、大輪の花を咲かせたのだと思います。

2着シャフリヤールは不利な外枠でしたが、スローの瞬発力勝負という得意な展開。冒頭の通り、差し切ったと思いましたが、勝ち馬の一瞬の脚にやられました。ただ、これは私の想像ですが、藤原英師とすれば、自身が管理したエイシンフラッシュの産駒ヴェラアズールに負けたのなら仕方ない、という思いが少しはあるかもしれませんね。もちろん、シャフリも力を示したいい走りでした。

最後に、外国馬4頭に感謝を。やはり走破時計、上がり時計の壁はあったと思いますが、若い馬、実績ある馬が挑戦してきてくれたことで、久々にジャパンCらしい盛り上がりがありました。日本馬は強くなりましたが、まだまだ海外から学ぶことはたくさんあります。(JRA元調教師)

ジャパンCを制したヴェラアズール、右から渡辺調教師、ムーア騎手と記念撮影に納まる(撮影・柴田隆二)
ジャパンCを制したヴェラアズール、右から渡辺調教師、ムーア騎手と記念撮影に納まる(撮影・柴田隆二)