8907頭の頂点に立ったのはイタリアのミルコ・デムーロ騎手(24)が騎乗したネオユニヴァース(牡、栗東・瀬戸口)だった。あん上の冷静な騎乗に導かれた会心の勝利。皐月賞に続く2冠を達成するとともに、初の外国人ダービー騎手となった。夢のダービー制覇に瀬戸口勉師(66)も万感の表情。秋には94年ナリタブライアン以来となる3冠馬を目指す。2着はゼンノロブロイ(牡、藤沢和)。3頭出しで初のクラシック制覇を狙った藤沢和雄師(51)だが、2年連続の2着に敗れた。

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夢をつかんだその瞬間、デムーロが大きくほえた。満員のスタンドへ向けて、右手でつかんだステッキを高々と突き上げた。頭の中は真っ白だったが、自然と体が動いた。「ダービーは騎手の夢」。残り1カ月しかない短期免許だったが、ダービーを勝つためだけに日本へ帰ってきた。「とても幸せだ。言葉にならないよ」。史上初の外国人ダービージョッキー。夢は現実となった。

瀬戸口師は机をたたき続けた。残り200メートルで先頭に立つと、勝ったかなと思った。だが、すぐ不安に襲われた。526メートルの直線は長い。「あそこまで来れば勝つとは思ったが、ダービーだから…」。ゴール板を過ぎてやっと確信した。「競馬人の夢であるダービー。勝ててうれしい」。興奮のあまり顔が紅潮していた。地方競馬出身ゆえにダービーの舞台に立てなかったオグリキャップの無念から15年、夢はかなった。

強かった。完ぺきな強さだった。6年ぶりに誕生した2冠馬は強かった。

スタート直後、スタンド前で馬群の最内に入れると、ピタリと折り合いがついた。口を割っていたサクラとは対照的。「パドックから実に落ち着いていた。ビックリした」。強じんな精神にデムーロは驚いた。

直線も鮮やかだった。4コーナー、あん上は満を持してゴーサインを出した。「サクラをかわせば勝てる」。抜群の反応。次の瞬間にはもう前にいた。最後までムチは必要なかった。

「あんな内でいいのか」「あんな位置でいいのか」。道中は不安だらけだった瀬戸口師も最後は愛馬の強さにうなった。「競走馬に備わるいいものすべてを持っている」。想像を超えるレースだった。

皐月賞は運も味方した。道中は絶望的な位置取りだったが、勝負どころで前があいた。この日は違った。運の介入する余地はなかった。馬場状態を冷静に見極めたあん上の好プレーと馬の力がかみ合った。「この馬にできないことは一つだけ。それは言葉を話せないこと。世界中のどの馬と比べても渡り合える」。デムーロはまくし立てた。秋にはナリタブライアン(94年)以来となる3冠の期待がかかる。

13万人のミルコ・コールを浴びて、ヒーローは感極まった。「日本のダービーは最高だ」。熱い物がこみ上げてきた。涙を腕でぬぐうと、ヘルメットをとってスタンドへ一礼した。目は真っ赤だった。「イタリアダービーを5回勝つより、1回、日本ダービーを勝つ方がうれしい」。00年生まれ8907頭の頂点に立ったのはネオユニヴァースとミルコ・デムーロ。夢の表彰台でイタリアの若者がまばゆく輝いた。【鈴木良一】

◆ネオユニヴァース ▽父 サンデーサイレンス▽母 ポインテツドパス(クリス)▽牡3▽馬主 社台レースホース▽調教師 瀬戸口勉(栗東)▽生産者 社台ファーム(北海道千歳市)▽戦績 7戦6勝▽総収得賞金 4億4247万2000円▽主な勝ちクラ 03年きさらぎ賞(G3)03年スプリングS(G2)03年皐月賞(G1)

(2003年6月2日付 日刊スポーツ紙面から)※表記は当時