フランスのバラが日本馬を差す-。今年のジャパンC(G1、芝2400メートル、26日=東京)に唯一、海外から参戦するのがイレジン(せん6、J・ゴーヴァン)だ。ガネー賞制覇の実力馬は日本の大レースで結果を出してきた「バラ一族」と同じ牝系出身。フランス史上最強の女性騎手マリー・ヴェロン(24)とのコンビで、87年ルグロリュー以来36年ぶり2頭目のフランス馬、94年マーベラスクラウン以来29年ぶり4頭目のせん馬によるJC制覇を狙う。
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日本馬17連勝中の東京決戦。イレジンのゴーヴァン調教師は火曜朝、「イクイノックス」「リバティアイランド」の見出しが躍る日刊スポーツを手に「もちろん、2頭のことは意識します」と不敵な笑みを浮かべた。
プレレーティング120はドウデュース、パンサラッサと並ぶ数字。ロワイヤルオーク賞でG1初制覇を果たした昨秋時点では重馬場巧者のステイヤーだったが、今年は春のガネー賞でシムカミル、ベイブリッジ、ヴァデニに快勝し、一躍、欧州のトップホースの仲間入りを果たした。「デビューが3歳7月と遅かったですし、昨年はまずG1を勝ちたくてローテを決めたけど、今年は十分に馬が成熟してきたし、長距離輸送もこなせる状況にあると考えて海外に挑戦します」。
体質が弱かったため、気性面ではなく、健康面を強化する意図でデビュー前に去勢手術。せん馬のために凱旋門賞の出走資格はなく、陣営が選択したのがジャパンCだった。「香港(国際競走)からも招待は受けていたけど、JCは昨年からずっと誘ってもらっていたし、レース間隔も絶好」と参戦の経緯を明かす。4歳春に重賞初挑戦初制覇だったラクープ賞ではJCに2年連続で来日したグランドグローリー(21年5着、22年6着)を撃破している素質馬。前走コンセイユドパリ賞を快勝し、完全な本格化を印象づけての来日だ。
史上初“帯同馬付き”参戦も見逃せない。日々の調教では常に帯同馬のマルカンがリードホースとなって、リラックスした状態が保たれている。「イレジンが参戦する上で必要だということでJRAに要請しました。もし要請が通らなければ、参戦しなかったかもしれません」と師は配慮に感謝を述べ、「彼(マルカン)は優しい性格で、前を歩きたがる。理想的です。調教だけでなく検疫の期間も一緒にいてくれたので、メンタル面が落ち着きました」と存在の大きさを語る。
イレジンは18年アルカナ社ドーヴィル1歳セールでわずか6000ユーロ(当時約80万円)で師が自ら発掘した。「馬体が気に入って買いました。脚が4本とも白いのは好まれない傾向にありますが、私はこの馬が丈夫な馬だとわかったので迷いませんでした」。落札理由を説明する師に対し、記者が“バラ一族”と同じファミリーであることを伝えると、もの静かな学者のようだった声のトーンが急に上がった。「全然知りませんでした。それは素晴らしいですね。この馬の勝負服もバラのような色(ピンク色)なんです」。脚質は後方待機から直線一気。日曜の府中、フランス生まれの“バラ”が咲き乱れるか。【木南友輔】
◆ジャンピエール・ゴーヴァン 63年5月18日生まれ。見習騎手から93年に調教師へ転身。厩舎はパリから約500キロ、リヨンから100キロほどの中部サン・シル・レ・ヴィーニュにある。馬房数は55で現在は40頭ほどを管理。厩舎施設自体は27年に100周年となる歴史的なもの。代表的な管理馬は12年仏ダービーを制し、凱旋門賞に挑んだサオノワ。オーナーが小さな街のパン屋さんであることが話題になった。
◆JCの国別勝利 81年創設以降、今年で43回目。日本馬が28勝と断然リードしており、海外勢は米国、英国の4勝が最多。創設当初は海外勢が優勢だったが、現在は日本馬が17連勝中。外国馬の優勝は05年アルカセットまでさかのぼる。
◆バラ一族 フランスから輸入された繁殖牝馬ローザネイから日本で派生したファミリー。バラにちなんだ馬名がつけられることが多く、初子のロゼカラー、その初子のローズバドなど優秀な血が脈々と引き継がれてきた。ローズバドの子ローズキングダムは09年朝日杯FSでバラ一族初のG1制覇、翌年JCでは繰り上がりV(1位入線ブエナビスタが降着)を果たした。最近では、昨年の秋華賞をスタニングローズ(ローズバドの孫)が制している。イレジンの3代母Reve de Reineは、ローザネイの母Riviere Doreeの全妹にあたる。
仏女性騎手 年間最多84勝ヴェロンと参戦
きれいなバラにはとげがある? イレジンに騎乗するのはフランスの女性騎手M・ヴェロン。16年にデビューし、20年には84勝で同国の女性騎手年間最多勝記録を更新。昨年自身初のG1制覇を達成するなど、近年は仏リーディング上位の常連となっている。今夏のワールドオールスタージョッキーズで初来日し、JRA初勝利も挙げた。イレジンとはデビュー2戦目からずっとコンビを組んでいる。女性騎手のJC騎乗は90年のJ・クローン騎手(ファントムブリーズ14着)以来、2人目(ウインエアフォルクには日本人女性ジョッキーとして初めて藤田菜七子騎手が騎乗予定)。

