久須美酒造/長岡市
今季から杜氏となった石井敏智さん(中央)と蔵人たち

 約30年前に連載されドラマ化でも話題になった漫画「夏子の酒」。モデルとなった長岡市の久須美酒造は、久須美記迪(のりみち)会長(当時専務)が1980年に幻の酒米「亀の尾」に出会い、その種籾を探し出し、生産農家でもある社員・蔵人と二人三脚で3年がかりで「亀の尾」を復活させ、吟醸酒「亀の翁(お)」を醸した。いい酒を造るために酒米と吟醸づくりにこだわる姿勢は、当時の清酒業界に新しい風を起こした。

 蔵の宝である酒米亀の尾を使った酒には、ほかに「亀の王」がある。掛け米に亀の尾、こうじ米に山田錦を使った純米吟醸酒だ。じっくり寝かせ生貯蔵酒として毎年6月に発売している。この「亀の王」を冬でも味わえるのが今回の1本「純米吟醸 亀の王 しぼりたて」だ。

 蔵の180周年と久須美賢和(よしたか)社長の7代目就任の節目に誕生し今年で5年目となる。フレッシュな味わいと上品な香りのバランスが絶妙で、ふくらみがあり、後味はスーッときれいに消える。数回に分けて味わうと、最初はおとなしく、だんだんに味がのってきて、コクの変化を楽しめる。

 時間がたつほどにおいしくなる理由はしっかりとした造りにある。全量自家精米、甑(こしき)やこうじ蓋(ぶた)などの昔の道具を使い、酒母造りでは「汲み掛け」という伝統手法を2、3時間おきに一昼夜繰り返す。昔ながらの手法にこだわる理由はもう1つ。「伝統の職人技のすばらしさを追求していきたい。その理由がわかれば、応用してさらにいいものが造れるはず」と久須美社長。

 今季から杜氏を務める石井敏智さんも「蔵人とともに手を抜かず、ひと冬しっかりがんばります」と意気込む。来週24日には蔵の裏山の穴蔵で「亀の翁」を30年保管した「亀の翁 くらしっく 三十年熟成」が発売となる。地に足を着けて未来を見据える蔵の姿勢が、凝縮された酒だ。【高橋真理子】

[2017年1月21日付 日刊スポーツ新潟版掲載]