憧れの大投手からの思いをしっかりと胸にしまった。巨人杉内俊哉投手(37)の引退会見翌日の13日。ドラフト1位右腕・鍬原拓也投手(22)はジャイアンツ球場で、会見での発言を伝え聞いた。「高田とか、大江とか、ノブ(今村)もすごい良い球投げている。鍬原も良い球、投げてますね。彼らに、今後頑張ってもらいたいですよね」。ユニホームを脱ぐ左腕から、将来を託される期待の言葉。「本当ですか? 素直にうれしいです。頑張らないとな…」とかみしめた。

苦しい現状に、光の差す言葉だった。現在、左脇腹痛のため3軍でリハビリを行っている。ワンバウンドでのネットスローなどは行っているが、実戦復帰はまだまだ先。焦る気持ちを抑えながら、練習を続けている。1月の新人合同自主トレから別メニュー調整と出遅れながらも5月31日に1軍デビューし、6月14日に初白星。約1カ月半、先発ローテを守ったが、7月中旬に2軍落ちして、再度の1軍昇格を期していた矢先の8月後半に負傷した。

リハビリを続ける中で、3軍で練習していた杉内とともに過ごせた時間はかけがえのないものだった。練習で汗を流した後、風呂場へと向かう。そこで一緒になった時は質問攻めにした。「細かいことは内緒ですけど、畠さんと2人でのぼせるほど、いろいろ聞きました。気づいたら1時間以上たっていた。野球のことをたくさん。本当に貴重だった」と振り返った。幼い頃にWBCで活躍していたテレビの向こうのヒーローと、裸一貫で話し合える。これ以上のチャンスはないと、湯を沸かす以上の熱量で問いかけた。

偉大な先輩はプロ17年で、142勝という数字を打ち立ててユニホームを脱ぐ。プロ1年目、ユニホームを着たばかりの右腕は「自分も練習頑張ります」と力を込めた。負傷にめげることなく、金言を胸に、1勝ずつ杉内に近づいていく。【巨人担当 島根純】