傷だらけのフェンスが苦悩を表していた。藤浪が苦悶(くもん)した痕跡が、鳴尾浜にある。2軍暮らしが長かった昨季、左翼ファウルゾーンにあるフェンスの金網部分をボコボコにした。「自分の感覚を取り戻そうと…」。福原2軍投手コーチの構えたミットの位置にボールがいかない。すっぽ抜けて投球が頭上を越えるシーンを何度も目撃した。「ドン!」「ガシャーン!」。それでも藤浪は続ける。全くめげなかった。

今もフェンスは、へこんだまま。見守った球団関係者は「彼の野球人生で、こんなに大きな壁にぶつかったのは初めてじゃないかな。(フェンスは)いつかは、直さないといけない。ただ残してもいいかもしれない」と神妙に話す。

藤浪は「(2軍で)やってきたことは、間違ってないと思います」と、1つ壁を乗り越えた。さらに本来の姿を取り戻したとき、「傷痕」は苦闘を乗り越えた「軌跡」となる。【阪神担当=真柴健】