◆「未来の地図帳~人口減少日本で各地に起きること」/河合雅司/講談社現代新書

野球人口の減少が叫ばれて久しい。肩ひじを守るための球数制限問題、指導者のパワハラ問題など、子どもたちが安心して野球を楽しめるための議論が年々、活発になっている。

環境整備は大事なこと。一方で、野球界の議論は「少子化」をより意識した上で方向性を導き出すべきとも感じる。“現実”を伝えてくれるのが当書だ。

講談社現代新書「未来の地図帳」
講談社現代新書「未来の地図帳」

「47都道府県はもはや、維持できない!」。帯で大きく主張する当書は、国立社会保障・人口問題研究所が18年に発表した統計「日本の地域別将来推計人口」に基づく。最初からいきなり、強烈なデータを見せられる。2045年の日本列島の人口とは…?

秋田県=62・4%減

青森県=58・9%減

横浜市=344・6万人(うち65歳以上が119・1万人、80歳以上が45・6万人)

さすがにこれ、下振れの数字では? 何とかなるのでは? と思いたくなる。元新聞記者の著者が緻密な研究を重ねた末の、端的な一節が、そんな甘い考えを砕く。

「過去の少子化のツケでこれから出産期に入る若い女性がハイペースで減っていくため、当分の間、出生数は下げ止まらない。人口減少社会は年々酷くなっていくことは避けられない“現実”なのである。」

同統計でいくと、25年後には9県で人口が70万人を割る。かたや神奈川県は約830万人。「暑い夏に甲子園は…」という議論どころか、高校野球のあり方さえ変わるかもしれない。

当書によると「東京一極集中」は、県単位にもあてはまる事象で、同一県内での人口一極集中も進むとされる。商圏が狭く濃くなれば、プロ野球の球団運営には一時的に有利に働くかもしれない。一方で、列島を俯瞰(ふかん)すれば、子どもたちが活発に野球に取り組める「街」さえ、どんどん減るのだろうか。

もう一節、当書から引用する。

「“2019年の社会”を維持せんがために無理を重ね続ける手法に成算があるわけがない。」

社会を「野球」に置換しても、考えさせられる一節になる。人口減を想定したハードに、大胆に変えるか。娯楽としての野球に徹し「なるようになる」と目の前のことをこなすか。

時間は待ってくれない。巨人菅野の出身地・相模原市南区は、過去25年間で夏の甲子園に52人の球児を輩出した。神奈川県内の自治体で輩出数・輩出率とも最も高い。この街で昨秋、百貨店の伊勢丹が閉店した。人口増減との因果関係は不明だが、いよいよ人ごとでは済ませられない段階に入った感覚は、当書でさらに強まった。【金子真仁】