つかの間のVIP気分と港町情緒を味わった1カ月だった。

JR関内駅からほど近いDeNAの本拠地横浜スタジアム。6月の練習試合再開時から、球団側が報道陣の「密」にも配慮し、通常のバックネット裏やや一塁側寄りの記者席ではなく、すぐ隣の個室観覧席「日産スタースイート」からの取材となった。

6月19日、試合前に医療従事者への感謝を込め拍手を送るDeNAと広島の選手(「日産スタースイート」から撮影)
6月19日、試合前に医療従事者への感謝を込め拍手を送るDeNAと広島の選手(「日産スタースイート」から撮影)

19年シーズンから設置された特別室。そのバルコニーから海風を感じつつ、選手、審判らが生み出す球音、声、プレーを注視した。試合中でも一塁側の横浜港からは船舶の汽笛が静かに聞こえ、三塁側からはJRの車両が行き交う度に、ガタンゴトンとリズム良く音が響いた。ともに通常開催時なら、よほど聞き耳を立てていないと聞こえないレベルだろう。

通常なら選手と同じグラウンドレベルに立ち、ベンチ前付近から行う試合前取材も、内野スタンドの限られたエリアから見守るだけ。担当記者の定番業務となる地下駐車場での選手への“ぶら下がり”も当然禁止だ。ヒーローへの追加取材や、独自に狙いを付けた選手への取材、コーチや裏方さんから補足的なコメントを集めることができない。ゲーム後の取材は、自粛期間中と同様に「Zoom」を利用したオンライン取材。便利さもある一方、取材対象や報道陣同士の空気はつかみにくく、質問のタイミングや言葉選びも、いつも以上に気を配る。

10日から有観客開催となり、ハマスタでも17日から久々にファンの姿が戻った。同時に報道陣も特別室から以前の記者室へ。人数制限は継続中でスタンド同様に“間引き”された状態ではあるが、少しだけ従来の取材環境に戻った。試合に目を移せば、1つ1つのプレーに歓声が湧き、拍手喝采が響く。つい先日までは無観客下で聞こえる選手の声や音にも新たな魅力を感じたが、やはりスタジアムの雰囲気は、ファンも一体となって醸し出すものを強く感じた。

コロナの感染再拡大により、8月1日からの「収容人数50%」の開催は見直され、取材環境も当面は変わらないだろう。観戦スタイル同様、取材もこれがニュースタンダードになっていくのか…少しだけにぎわいを取り戻した夜の横浜で、思いを巡らせた。【鈴木正章】