「赤い稲妻」の名誉を守り抜く。オリンピック(五輪)最多3個の金メダルを保持するキューバ。5月31日(日本時間1日)からの米大陸予選に6度目の五輪切符をつかみに行く。92年バルセロナ五輪で初出場以来、08年北京五輪まで連続出場。だが3大会ぶりに競技復活した東京五輪を目指す道のりは、現状では苦難の道中だ。19年プレミア12で、1次ラウンド敗退。米大陸の最上位に与えられる五輪切符はメキシコに譲った。北京五輪銀メダル以降、WBCも含めて主要国際大会で停滞。落日の感がある。

中日のR・マルティネス(2021年5月21日撮影)
中日のR・マルティネス(2021年5月21日撮影)

米大陸予選に挑む主要な代表選手はプレミア12から代わり映えしない。投手陣は10人中9人が同じメンバー。野手も41歳の元巨人セペダ、34歳のソフトバンク・デスパイネ、33歳の元ロッテ、ロエル・サントス。高齢化は否めない。

35歳ながら脂の乗ったソフトバンク・グラシアルが右手剥離(はくり)骨折、頭角を現してきた中日A・マルティネスは上肢コンディション不良で代表に合流できなかった。戦力ダウンも避けられない。

だが確かな光もある。プレミア12では開花していなかった若きタレントが日本の地で芽吹いている。中日R・マルティネスは球界でも指折りの守護神に。中日Y・ロドリゲスも12球団トップのチーム防御率の投手陣で先発ローテに食い込む勢いだ。ともに育成出身。潜在能力に、日本の細やかな技術が融合。今予選にも選出され、ソフトバンクで育成選手から球界屈指のセットアッパーに大成したモイネロと同じ道を歩む。ロドリゲスは「(予選対戦国の)向こうより日本のバッターの方がレベルが高い」と積み上げられた経験値の高さを実感している。

力投する中日ロドリゲス(2021年5月13日撮影)
力投する中日ロドリゲス(2021年5月13日撮影)

投手陣で唯一、プレミア12から新たに名を連ねたチーは同国のトッププロスペクトだ。150キロ前後の直球に切れ味鋭いスライダー、フォークは上物の薫りが漂う。メジャーでの一獲千金を夢見て、主力選手の亡命が相次ぎ、国内の才能は枯渇しつつある、といわれた時期もあった。だが巨人を経て亡命したレンジャーズのガルシアが今季、大谷と本塁打王を争うまでにブレーク。源泉は枯れないことを証明している。

ソフトバンクのモイネロ(2021年5月23日撮影)
ソフトバンクのモイネロ(2021年5月23日撮影)

04年アテネ五輪金メダル、日本と雌雄を決した第1回の06年WBCで準優勝に導いたベレス元監督が、5月に新型コロナウイルス感染による合併症で亡くなる悲報があった。悲しみを和らげる朗報が切望されている。米大陸予選で1位を逃せば、同予選2位、3位が出場できる大陸間の五輪最終予選が最後の1枠を懸けたラストチャンス。だが想定にはない。R・マルティネスは「最終予選に行くつもりはない。できるだけ早く日本に帰ってきたい」と言い切る。「赤い稲妻」が電光石火で日本にUターンする。【広重竜太郎】