<チェンジ~自分を変える>

名前が呼ばれる瞬間は神宮のマウンドにいるかもしれない。セガサミーの右腕・横山楓投手(国学院大=23)は「大学の時、指名を待つ嫌な雰囲気を知っているので。試合の方がいいです」と苦笑いで語った。都市対抗東京都2次予選に敗れて、第3代表決定戦に回る。プレーボールは11日午後6時。同5時からのドラフトの結果は試合後に知る。

ドラフトファイル:横山楓
ドラフトファイル:横山楓

指名漏れを味わった2年前から、いろいろ「チェンジ」した。まず見た目。体重が8キロ増え、91キロのがっしり体形に。直球の最速は4キロ増え153キロ。力強く押し込むスタイルがスカウトの目に留まった。フォームも変わった。捕手方向へ突き出していた左腕を、三塁方向へ伸ばすようにした。肩の開きが抑えられた。雰囲気も変わった。登板に合わせ宮崎から上京し、応援してきた母香子さん(47)は「学生の頃は自信なさげでしたけど、今はオーラというか、表情に余裕を感じます」と目を細める。

体技心、全てがチェンジした。大学で指名漏れした選手が2年間で再び候補となるケースは、それほど多くない。横山も社会人1年目の公式戦登板は2試合だけ。ベスト4まで進んだ昨年の都市対抗本大会はベンチにも入れなかった。それが、2年目でリリーフを任されるまでになった。

セガサミー・横山楓(21年9月)
セガサミー・横山楓(21年9月)

全ては、恩師との再会から始まった。昨年12月2日の都市対抗準決勝ホンダ戦。国学院大の鳥山泰孝監督(46)から連絡をもらい、一緒にスタンドで観戦した。くすぶる教え子に、監督は言った。「自分からいろんなところに足を運んで、何かヒントを得るのもいいんじゃないか」。野球部は、大学の健康体育学科の先生から栄養指導を受けるようにしたという。「個人でやってみたらどうだ」。

横山は同科卒業。ゼミの指導教官だった小林唯助教は栄養学の先生だった。早速、指導を依頼し快諾された。まずは体重90キロを目指した。同じ身長181センチほどのプロ投手の多くが90キロを超えるからだ。毎食の写真をラインで送った。「タンパク質が足りない。納豆と卵をプラスして」。「サラダがない。野菜ジュースを」。具体的な指導で「休みは2食で済ますこともあった」食への意識を改め、4月には目標到達。並行して進めた投球フォームの見直しとマッチし、3月には最速が150キロに。4月に151キロ。7月には153キロとなり、「セガサミー・横山」がスカウトたちにインプットされていった。

決して特別なつてを頼ったわけではない。チェンジの機会は身近にいた人たちが与えてくれた。分かれ目は、それを逃さなかったこと。変化を恐れずに動いた。その原動力こそ、2年前からの最大のチェンジだ。

「プロになって、野球で稼げるようになって、一緒に暮らせるように。一番のモチベーションです」

昨年2月、セガサミーの野球部寮に入寮してすぐに結婚した。妻の愛さん(22)が大分の実家で、今年8月で1歳になった長男の稔(じん)君と待っている。初めから単身赴任だったが、愛さんに言われた。「一番心配なのは、野球に集中できないことだから。2年間、頑張って」。稔君とは、まだ4、5回しか会えていない。「プロに指名されて迎えに行く。格好良く言うと、そんなところです」と照れながら言った。

「楓(かえで)」の名前は、1歳の時に他界した父が付けてくれた。

「楓はいろんな植物の中で最後に色づく。最後にきれいな色になって花を咲かせてほしい」

そんな願いが込められている。人生を色づかせる秋にする。【古川真弥】(この項おわり)