ウワサの光景は確かに新鮮だった。今冬、愛工大名電(愛知)を訪れると、夏の大会をとっくに終えている3年生16人全員が、1、2年生と一緒に練習を行っていた。広島入りした田村俊介もいる。「3年生を引退させない」試みは2年目を終えようとしている。

髪の毛は少し伸びているが、体つきは昨夏の甲子園出場時と変わらず引き締まり、動きも俊敏。屋外での打撃練習は学年ごとの3グループに分け、同じ時間が割り当てられていた。

「2年前にコロナで甲子園がなくなった。そこで思ったのは、甲子園を目指すのは大事だけど、甲子園がなくても高校野球はある。最後まで自分の成長を求めていくことが高校野球の一番大事なことではないかということ。夏の大会がなくなっても最後までやれることはやる、もっと覚えることがあるんだと」

倉野光生監督(63)はコロナで大会を奪われた3年生に、思う存分野球をやってほしいとの思いが出発点になった。もう1つの狙いもある。

「卒業するまで3年生に野球やらせたいな、というね。夏が終わってもあと半年、3年生が一番成熟して、一番いいところで終わっちゃうのも何だかもったいないじゃない」

次のステップへの備えだ。3年生は11月まで大学生や社会人チーム、クラブチームと真剣勝負の試合をした。使用バットはもちろん木製。大学や社会人のレベルをいち早く知り、春からすぐにとけ込めるようにと思いを込める。立ち居振る舞い、プレーの引き出しなど「大人」たちから学ぶことは圧倒的に多い。

倉野監督はこの取り組みを「UCLB」と名付けた。Uは大学、Cは企業で、Lは学び、Bは野球。野球を通じて大学や社会人のことを学びましょうということだ。対戦相手の練習環境や、会社の様子なども見学し、研修する。

また考えに共鳴した他校の3年生とも積極的に試合を組んだ。県岐阜商をはじめ、愛知、静岡、長野と近隣エリアの学校に声をかけ、その輪は少しずつ広がっている。倉野監督は愛知県や東海地区の球界のレベルアップにもつながると確信している。

「3年生がそろわなかったら合同チームでも選抜チームでもいい。たとえば愛知県と東京都の選抜チームで対戦したら面白いじゃないですか。『3年生大会』をやってもルール的には何の問題もない」。構想はまだまだ膨らみ続けている。

大事なのは「真剣」にやること。彼らはあくまで現役である。「ただの思い出作りではなくて、しっかりと目的を持ってやらないといけない」と強調する。コロナ禍もあり高校野球の形が変わっていく中、こちらの広がりも楽しみにしている。【柏原誠】