片岡篤史の衝撃的な写真、動画を見て、言葉を失った。思い出したのは2年半ほど前のちょっとした出来事だ。金本知憲が阪神の指揮を執っていた17年9月のある試合。敗戦後、虎番記者の佐井陽介が深刻な表情で「片岡さんが怒っているみたいです」と言ってきた。

試合終了直後、佐井に対して片岡は「何や、あれ。ちょっと言うとけ」と、こちらの書いたコラムに語気を強めていたという。

今年は開幕していないので機会が少ないが阪神に同行して、このコラムを書かせてもらっている。直接野球に関係ない場合もあるが、基本、試合について書く。起用法にも触れる。取材しているとはいえ、こちらは外部からの視線。実際に戦っている現場との“摩擦”が生まれるのは当然だ。

そんなことは百も承知の上で怒っているというのなら話をした方がいい。そう思って「明日、話するわ」と佐井に告げた。翌日の昼前。朝早く片岡に会った佐井が「昨日の話ですが『あんなん。冗談やん』とおっしゃってました」とメールしてきてくれた。

それでも気にはなる。甲子園での試合前練習が終わり、ロッカー室に引き揚げるタイミングで「片岡コーチ。どないかした?」と声を掛ける。すると「ああ。何もないですよ。そんなん。高原さんが書くことに、いちいち怒りませんって。分かってるでしょ」とニヤリ笑った。

話はそれで終わった。実際に少しは立腹していたのかもしれない。それでもすぐ冷静になれるのは度量の大きさだろう。活躍してファンやメディアに称賛されるのもプロなら、うまくいかずに批判されるのもプロ。文句はあってもグダグダ言わない。根にも持たない。それでなくても「昭和のにおい」を残す片岡だ。

闘将・星野仙一の下で優勝した03年、歓喜の猛虎戦士になった。優勝決定試合での本塁打は忘れられない。個人的に印象深いのは90年代半ばの日本ハム時代。しぶとい打撃だった。イチロー擁するオリックスは試合には勝つものの片岡には打たれているイメージがあった。本当に野武士のような打者だった。

コーチになってからは野球の話を一生懸命してくれた。こわもてだが、いい男だ。そんな片岡があんな姿になっているとは。大きな体に不敵な表情で再び球場に現れることを心から願っている。(敬称略)

03年9月15日、広島戦で本塁打を放った阪神片岡篤史
03年9月15日、広島戦で本塁打を放った阪神片岡篤史