広島・森下暢仁は頭が下がるような好投だった。昼間に行われた巨人-ヤクルト戦の結果で広島の3位進出は消滅。チームとして落胆する思いの中、そんなことに関係なく目を見張るような投球を続けた。ストレート、変化球のコンビネーションで逆転優勝にいちるの望みをつなぐ阪神打線を苦しめたのだ。

どの球団を応援するということを超え、声援を送りたくなるような内容の森下に対し、しかし、阪神は食らいついた。「近本まで…」。スタメン発表のとき、虎党を落ち込ませたムード。それを振り払ったのは佐藤輝明ではなかったか。

21日の中日戦で近本光司が右太もも裏に張りを訴え、途中交代。この日は試合前に笑顔で練習する光景があったので大丈夫かと思われたが欠場した。現状、阪神でもっとも当たっている打者。それを欠き、森下相手に苦戦は必至だった。

佐藤輝の起用も正直、積極的だったとは思えない。左打者中心に打線を組む中で外野の1人としてスタメンに名を連ねたのだろう。結果も3回の第1打席、走者を置いた5回の第2打席と2打席連続三振だ。

しかし好投手に対する典型的な形は見せた。食らいついていけ! というアレだ。最初が7球、次が9球粘った末の空振り三振。必死で森下に球数を投げさせた。それもあり、7回2死を終えた時点で森下は100球を超えていた。そこから7回の同点劇につながったのだ。

7回のつなぎの一打は、佐藤輝自身にとってスタメンをアピールする幸運な安打でもあったが、同時に指揮官・矢野燿大が繰り返す「全員野球」「一丸野球」を象徴する姿にも見えた。欲を言えば島田海吏、中野拓夢の上位陣は手ごわいと思えばセーフティーバントで仕掛けるなど早い段階で積極的な姿勢も見せてほしかったけれど。

とにかく勝てなかったけれど負けなかった。昼間に負けたヤクルトの「M3」はそのまま。2位にいる阪神の方が「勝ちに等しい引き分け」になる不思議な状況になった。

あと2試合。このカード初のドローを終えて臨む24日の広島最終戦だ。ここ5試合すべて1失点以下という投手陣の踏ん張りはもちろん、佐藤輝の土壇場での“復活”があれば最高だ。「全員でなんとかするという気持ちを結果につなげたい」。指揮官の言葉をナインが体現すれば、本当に何かが起こるかもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)