津田学園は注目のエース右腕前佑囲斗(まえ・ゆいと=3年)投手が4安打170球の熱投も、延長11回で力尽きた。試合中には、甲子園の魔物が前を襲っていた。

10回までスコアボードに「0」を刻んだ。2回に初安打を許すも、その後は9回1死まで無安打投球。ランナーがいない時は130キロ前後の直球も、走者を背負えば130キロ後半を連発するなどピンチでギアを上げた。4回1死二、三塁のピンチも自信の球を武器に、2者連続三振で要所を締めた。

異変が生じたのは試合中盤。前は「6回ぐらいから指がつりかけていて、少しずつ球に威力がなくなっていった」。つったのは球を握る親指、人さし指、中指の3本。マウンド上で、指を気にするしぐさも多く、つっては自ら治し…、を繰り返していた。これまで、こういう経験はなかったという。

試合は両チームともに「0」が並ぶ緊迫した展開。「メンタル面から疲れが出てきた。『自分の1球で試合が動いたらダメだ』という緊張感の中でやっていたので、すごく疲れを感じました」。チームの援護を待ちながらも、心身ともに疲労が蓄積していた。

9回、10回と1安打ずつを浴びるも、ピンチをしのいで迎えた11回。ここまで球数は137球。「体の開きがすごく早くなって、甘い球やボール球が多くなった。バッターに絞られるような感じになった」。2四死球で1死一、二塁から2年生の5番奥村真大内野手に左越え適時二塁打で初失点。犠飛も許してこの回2点を失い、粘りきれなかった。

現在、最速148キロを誇るが入学当時の最速は128キロ。自主性を重んじる同校において、1年秋から毎晩、白米を1・2キロ食べることを自ら義務づけた。体重は入学時から20キロアップの88キロに、球速も20キロ上がった。

終盤のピンチの場面で、ベンチの佐川竜朗監督(40)から交代の意思確認にも「自分が行く」と合図を送った。「自分がピンチをつくったから、しっかり抑えていこうという気持ちで」。エースの覚悟で、投げ続けた。

佐川監督は継投について「前に託していたので、代えづらかった。1点取られてから、さらにギアも上がったし、託そうと思った。最後まで投げ抜いてくれて、感謝している」。信じ抜いた背番号1に言葉をかけた。チームとしては「先を見据えたら(接戦の試合を)経験ができたのは良かった」と、収穫を口にした。