虎が3連勝ターンだ。中盤までは中日に主導権を握られる苦しい展開だったが、大和内野手(29)が左右両打席でタイムリーを放つなど3安打4打点の活躍。粘り強い野球で逆転白星をつかみ、後半戦に備えることになった。首位広島との8ゲーム差は変わらなかったが、この日のようなあきらめない姿勢がミラクルには欠かせない。金本知憲監督(49)も「目指すは上なんでね」と宣言した。

 報われた。ついに覚悟を肯定できる瞬間が来た。左打者大和は体勢を崩され、右足を一瞬浮かしたまま低めシンカーに食らいついた。同点の8回2死二塁。又吉の外寄り145キロをライナーで三塁頭上へ。スイッチヒッター転向1年目の今季、初の決勝打を決めた。

 「この年齢で挑戦して、(スイッチヒッターを)やめたいという気持ちはいつも持っていた。こんなふうに打てて、やっていて良かったと思えました」

 2点を追う2回に左翼線適時二塁打。再び2点を追う6回2死満塁は同点の右前2点打。2本とも右打席での快音だ。8回は右腕又吉が相手。それでも首脳陣は代打を送らなかった。「喜びとビックリと…」。左打者大和を信じてもらった。感謝をバットに込め「本当はもっと喜びたいです」とクールに照れ笑いした。

 愛妻の反対を押し切って勝負に出たという。昨秋、首脳陣から両打ち転向を勧められた。妻麻理子さんに前向きな気持ちを伝えると、必死で止められた。「やめた方がいいって!」「無理に決まってるじゃん!」。30歳を目前に控え、1歳の愛息もいた。リスキーな挑戦だと理解した上で何度も何度も説得した。

 「ここ2年間全然ダメだった。崖っぷちまで来たのに、まだチャンスをもらえたんですから。周りがモノになるまで3年かかると言うなら、3年分を1年でやればいいと考えた」

 昨年11月下旬、人知れず地元鹿児島に戻った。「すべての人との付き合いを遮断して練習したくて…」。午前中はティー打撃、午後はバッティングセンターで打ち込み。左打席だけで両手の皮をズルむけにした10日間で、決意は固まった。

 「今年は1軍に上がれないことも覚悟していた。今も左でバットをトップの位置に持ってくる時、なんか気持ち悪いですよ」

 オフは左打席でグリップに重量感がある「タイカッブ型」を使用していたが、今は右打席と同じモノに戻した。まだ試行錯誤の真っただ中だ。それでも成功を信じて待つ家族がいる。6月29日には次男も誕生。立ち止まってはいられない。

 チームはいぶし銀の今季初猛打賞&4打点に導かれ、14年ぶりの前半戦3連勝フィニッシュ。若虎、ベテラン勢に負けじと中堅組が躍動し、苦しい試合をひっくり返した。金本監督は前半戦総括で言った。「目指すは上なんでね。上を向いて、前を向いて戦っていきます」。大逆襲の準備は整いつつある。【佐井陽介】

 ▼大和が3安打4打点の大活躍。猛打賞は16年5月4日中日戦以来で、今季初(通算29度目)。4打点も今季最多で、12年4月22日DeNA戦での6打点に次ぎ自身2番目。スイッチヒッター転向後では、最高の大当たりとなった。

 ▼大和は今季遊撃で先発出場した12試合で打率3割3分3厘(42打数14安打)と好結果。二塁スタメンでの2割1分4厘(14打数3安打)からはね上がる(他の位置での先発はなし)。先発遊撃の試合でノーヒットは3試合しかなく、マルチ安打は4試合と安定している。

 ▼阪神は43勝36敗の勝率5割4分4厘で前半戦を終えた。貯金7以上は、14年の同じく貯金7(45勝38敗1分け)以来3年ぶり。同年は公式戦2位も、CSを勝ち抜いて日本シリーズに進出した。

 ▼阪神は9日巨人戦、11日中日戦に続き、3連勝。前半戦3連勝フィニッシュは、03年の3連勝(7月10日広島戦、11、12日巨人戦)以来14年ぶり。同年は星野監督のもと首位ターンし、セ・リーグ優勝を飾っている。