先日、メットライフドームの記者席でナイターを見ていたら携帯が鳴った。ショートメッセージを見て驚いた。

 「7月29日から駒込で焼き鳥屋をオープンしました」

 送り主は、吉原道臣(36)。元横浜(現DeNA)の投手だ。入団は07年。私が初めてプロ野球を担当した年のルーキーで、“同期入団”のような親しみを持っていた。プロを4年で終えた後、製薬会社の営業マン、介護職などをへて、情報通信技術を扱う会社に就職。サラリーマンとして新たな人生を歩んでいた。2年前に日刊スポーツでプロ野球選手のセカンドキャリアを特集した際、紙面で紹介させてもらったこともある。

 そんな彼からの突然の連絡だった。スーツ姿が決まっていたのに…。会社にいられなくなったのだろうか…。悪い妄想をしながら店へ向かった。JR駒込駅東口から徒歩2分。

 「酔串亭 笑吉(しょうきち)」。

 赤ちょうちんのかかる入り口をくぐると、変わらない笑顔がいた。

 「お久しぶりです!」

 10席もないカウンターと1つだけの小上がりは、ほぼ埋まっていた。何があったの? 生ビールを頼み、オススメNO・1の若鶏をつまみに、話を聞いた。

 吉原 元もと、料理が好きだったんです。横浜の寮を出る時、料理のおばさんにレシピをもらって自分で作ってたんですよ。

 手際よくタマネギを刻みながら語ってくれた。29歳で現役引退。いったんは飲食業の道を考えたが、当時は安定を優先した。だが、30代も半ばとなり再び決断。職場の人たちから温かく送り出されたのが1年前だった。

 まずは昔の先輩がやっている焼き肉屋に入った。そこで飲食業の基礎を学んだ。「酉(とり)年生まれだから」という理由で、焼き鳥屋を目指すことにした。社会人野球のホンダ時代、毎日のように通った狭山の焼き鳥屋を思い出した。頭を下げ、修行させてもらった。いい物件が見つかり、先月末のオープンにこぎつけた。

 国産生肉を使った串焼きは、火加減もよく、お世辞抜きにおいしかった。仕入れから仕込み、料理、配膳、片付けまで、基本的に1人でこなしている。飲食業では、まだルーキー。仕入れを見誤る日もある。それでも、一国一城のあるじ。

 吉原 もう中継ぎみたいに使われるのは、なしで(笑い)。先発完投を目指します。

 冗談めかしながら、休みなしの毎日を「楽しい」と言った。他のお客さんは、ベイスターズファンと高校の先輩。野球談議にも気軽に応えていた。地元のお客さんも増えているという。

 吉原 常連さんがつけば、また違うんでしょうけど、今はいろんなお客さんが来てくれる。毎日、変化があって、飽きません。

 店名「笑吉」には「笑いが絶えない店に」という願いを込めた。プロ野球選手、サラリーマンをへたから、サードキャリアかな。人生の道は一方通行だけじゃない。回り道もあるし、三差路もある。「味見をするから太っちゃって」と笑う吉原を見て、そんなことを考えた。(敬称略)【古川真弥】