桁違いの歓声が球場を包む。仙台の街が、この瞬間を待ちわびていた。楽天由規がヤクルト時代の昨年6月2日に楽天生命パークで投げて以来となる481日ぶりの1軍マウンドにたどり着いた。「地元のパワー、雰囲気…。込み上げてくるものがあった」。一気に高ぶった感情を打者へ立ち向かうエネルギーに変えた。「技術どうこうじゃない。原点に返って、気持ちで抑える。野球選手として忘れちゃいけないこと」。3者凡退。最速150キロ。最後は高め147キロで空振り三振。13球に魂を込めた。

「野球選手として続けられるか分からないところを拾ってもらった」。戦力外、育成契約から支配下復帰。ケガと闘い続けた偉大な先輩の魂を引き継いでいる。今季限りで引退するヤクルト館山が8日に宮城・石巻で行われたイースタン・リーグ楽天戦で投げた時は本気で悔しがった。前日に投げ、仙台残留調整のため2軍のチームを離れていた。「車を運転して見にいこうかと思った」。神宮球場での引退試合には花を贈った。「由規が懸命にリハビリする姿に刺激をもらってきた」。そんな風に自分を見てくれていたとは知らなかった。

9回を締め、ウイニングボールを勝利投手の則本昂に渡そうとしたら、返された。楽天入団後、エースからかつて由規の写真を携帯の待ち受けにしていたと聞かされた。「いいヤツですよ」と笑う。「生きざまを見せてほしい」と送り出した平石監督も「いい姿を見られた。伝わるものがあった」。チームにはCSがある。由規復活のシーズンにも続きがある。【亀山泰宏】