昨季限りで広島カープを退団した緒方孝市前監督(51)が今春、日刊スポーツ評論家に就任することが12日までに決まった。

緒方氏は監督として球団史上初のリーグ3連覇を達成した名将だ。世の中は新型コロナ・ウイルスの影響で先の見えない状況に追い込まれているが、広島はもちろん、同じセ・リーグの阪神、そして球界すべてに夢と期待を込め、新たな道を歩む構えだ。

   ◇   ◇   ◇

現在の球界で優勝は簡単ではない。連覇となればなおさらだ。そんな中、緒方氏が率いる広島は16年からリーグ3連覇を果たした。セ・リーグでは巨人以外、記録できなかった偉業だ。さらに、日本の主砲にまで成長した鈴木誠也を4番打者で起用。「育てながら勝つ」という課題を実現した。「名将」のレベルに達した緒方氏が新たな道を歩み始める。

「3連覇は選手、関係者はもちろん、ファンのみんなで戦った結果。言うまでもなく、自分だけの力ではないです。でも、喜べる瞬間を共有できたのはよかったと思いますね。誠也にしても彼自身がやったこと。こっちが育てたとか、そんな風には考えていません。誠也に限らず、選手は自分で成長していくと思ってます」

自身の実績を口にすることはないが、監督時代はナイターでも早朝から球場に詰めるなど、心身とも激務をこなした。5年の指揮を執り「これ以上は…」と昨季限りでユニホームを脱いだ。その後、表舞台に出ることはなかった。

「監督は5年間でしたが高校を出てカープ入団以来、選手、コーチ時代を含めて33年間、ユニホームを着ていた。自分では全力で走り切った思いでした。次に何をやろうとか、辞めてからどうしようとかは決めていませんでした」

一時は、野球と無縁の仕事はできないか、と模索したこともあるという。しかし熟考を重ねた末、やはり頭にあるのは野球だった。

「野球で生きてきたし、これが自分の道。野球の良さ、すばらしさをいろんな方々から教えていただいてきた。次はそれを伝えていく立場にならないといけない。現場は引いたけど、外から見ることで、魅力、面白さを伝えていきたいと思っています」

猛威を振るう新型コロナ・ウイルスの影響で現在、プロ野球の先行きは見えない。それでも緒方氏はプラス思考を捨てていない。チームの低迷、自身の故障など数々の困難を乗り越えてきた男は球界、社会に対してメッセージを持つ。

「誰もが影響を受けている。でもこうなった以上、“経験”が重要だと自分は思うようにしています。予想できなかった状況を経験した上で、それを乗り越える。そこから先を見据えることができると思います。今できることをやって、マイナスをプラスにしていくことが大事だと思います」

広島に3連覇をもたらし、球界を盛り上げた緒方氏ならではの視点で見る真剣勝負。古巣はもちろん、阪神、そして球界すべてを独自の視線でチェックしていく。開幕が待ち遠しい。

◆緒方孝市(おがた・こういち)1968年(昭43)12月25日、佐賀県生まれ。鳥栖から86年ドラフト3位で広島入団。俊足強打の外野手としてチームをけん引する。95年の10試合連続盗塁は現在もセ・リーグ記録。95~97年盗塁王。95~99年外野手でゴールデングラブ賞。09年現役引退。通算1808試合、1506安打、241本塁打、725打点、打率2割8分2厘、268盗塁。現役時代は181センチ、80キロ。右投げ右打ち。15年広島監督に就任し、16年からセ3連覇。19年に退任した。