3カ月遅れの開幕戦で超レア弾が飛び出した。阪神の先発西勇輝投手(29)がプロ12年目で初本塁打を放った。3回2死で巨人菅野から先制ソロ。球団の開幕投手では82年ぶりというびっくりアーチに加え、5回は一時勝ち越し適時打と全2打点を挙げた。投げては6回1失点と踏ん張り、投打に責任を果たした。無念の逆転負けでも、移籍2年目の西勇も存在感はピカイチだった。

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悔しい敗戦の中で、エースの奮闘が輝いた。「チームが負けてしまったので何も言えることはありません」。試合後は言葉少なだったが、独特の張りつめた空気を破ったのは西勇の「一振り」だった。

両軍無安打で迎えた3回2死、菅野が投げ込んだ147キロ直球に歯を食いしばった。フルスイングした打球は左翼ポール上部を直撃。驚いたような表情で行方を見守っていたナインが一斉に歓声を上げた。試合開始から表情を崩さなかった西勇の顔に、笑みがこぼれた。12年目のプロ1号が開幕戦での先制弾。開幕戦の投手本塁打は阪神では1938年(昭13)の御園生崇男以来82年ぶり、2リーグ制後は球団初の快挙だった。

バットはまだ止まらない。同点とされた直後の5回は1死から梅野が二塁打で出塁すると、今度は菅野の外角低めのスライダーを振り抜いた。左中間へ抜ける適時二塁打に、ベンチは再び沸き立った。

菅野は昨年まで4年連続でハワイ自主トレをともに行ってきた先輩。マウンドでも1歩も譲らなかった。内外を投げ分ける精密なコントロールは健在。4回に1点を失ったが、5回無死一塁で吉川尚の投ゴロをすばやく二塁送球するなど、ピンチの芽を摘んだ。6回4安打1失点と、開幕投手としてこれ以上ない投打の仕事ぶり。矢野監督は「いや、すごかったね。気持ちも身体も飛ばしてるという部分もあったし(投手交代は)難しい判断ではあった」とエースの姿を認めた。

新型コロナウイルスの影響で約3カ月遅れのシーズンイン。計画的に行ってきた調整も振り出しに戻った。「自分も悪かったなと思うんですけど、後退しないようにと思ってずっと練習してました」。自宅待機中は練習場所が限られ、先の見えない中でメンタル面を保つ難しさがあった。実戦では毎回新たな配球を試み前進を続けてきた西勇も、未経験の日々の中で悩んでいた。人気の少ない公園を探して走り込むなど毎日目標を持って、野球のために出来ることを必死に続けてきた。

あと1歩で敗れ、巨人戦初勝利は持ち越しとなった。それでも西勇の存在は光っていた。【磯綾乃】

▼投手が阪神のシーズン初本塁打を放ったのは、2リーグ分立後では初。昨年は開幕2戦目の3月30日ヤクルト戦で、糸井が1回に1号ソロを放ち、そのまま1-0で勝った。