スピーカーから渾身(こんしん)の応援を届ける-。プロ野球は10日から5000人を上限に観客を入れて公式戦を実施。鳴り物使用や大声が禁止される中、阪神は応援団によるチャンスマーチなどを録音して甲子園に響かせる。その“前夜祭”とばかりに甲子園開幕の9日巨人戦からさっそく実施。スタンドに姿はなくても、魂を込めた音源が球場に響いた。応援団「阪神伍虎(ごとら)会」の西尾浩幸団長(52)が電話取材に応じ、新しい応援スタイルへの思いを明かした。【取材・構成=奥田隼人】

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阪神が6日に発表した新たな応援方法では、球団の許可を受けた応援団がスタンドで生演奏していた応援歌やチャンスマーチは自粛となった。代わりに収録した音源が、スピーカーを通じて甲子園に流されることになった。「阪神伍虎会」の西尾団長は、魂を込めた収録を振り返った。

「我々が球場で応援しているのと同じようなタイミング、テンポで音源の収録を行いました。全部で6時間かかりましたね。応援歌のある個人選手は21選手います。特にチャンスマーチは各相手球団ごとに歌詞が変わります。『読売倒せ~』や『中日倒せ~』と1曲に5球団分ありますから、なかなか大変でした」

関西で緊急事態宣言が解除された後、3回の練習会を挟んで本番に臨んだ。6月下旬の夜、3密を避けるため大阪市内に広い会場を確保し、精鋭18人を送り込んだ「阪神伍虎会」など4つの応援団が収録に参加した。

「収録現場は本当に気合十分でした。この音源が何度も何度も、お客さんの耳に届くわけですから。みんな『今か、今か』と、ずっと準備してきた。えりすぐりのメンバーで臨んだわけですが、ブランクは感じなかった。勢い余って音を外すとかはありましたが(笑い)」

応援団としては、3月に入ってから練習会など基本的な活動を自粛。開幕とスタンドで応援できる日を待ちわびながら個人練習が続いた。西尾団長たちは球団や球場関係者と「with コロナ」の応援スタイルについて協議を重ね、収録音源によるスピーカー応援という形にこぎつけた。

「応援団というのは、お客さまの声を1つにまとめて選手に届けるというのが最も大きな使命。我々は応援してなんぼや、ということが根底にあるんです」

「阪神伍虎会」の中でも、スピーカーで応援歌を流す影響による観客の飛沫(ひまつ)感染を心配し「応援しない方がいいのではないか」という意見も出たという。しかし「何とか選手に応援を届けたい」という思いに変わりはなかった。声を張り上げての応援は禁止で、ファンには手拍子やメガホンをたたいての応援を求めている。

「新しい応援スタイルをお客さまとともに作っていく。阪神タイガースを応援する、プロ野球を応援するという意味で、何らかのメッセージを形作っていく第1歩になっていけばいいかなと思っています」

現在は週に1度の練習会で実戦のシミュレーションを行い、「応援の制限が解除になった時にマックスの状態で球場に行けるように」と呼吸を合わせている。阪神はビジター5カードを終えて最下位と出遅れたが、本拠地に戻って応援歌という後押しも得る。

「本拠地に帰ってきて、やっぱり甲子園が一番やと。阪神ファンの応援あってこそのタイガースやと。そうなってほしいと思います。本拠地開幕が、わがタイガースの仕切り直しのポイントやと思います。そこで応援歌が流れる、7月10日からはお客さまが入る。そういう状態でタイガースがどんだけ頑張っていってもらえるか。ここからタイガース逆襲するぞと。見てろと。そういう気持ちで、我々応援団も見守っています」

甲子園に響き渡る魂のこもった応援歌は、必ず選手の背中を後押しするはずだ。

◆阪神伍虎会 甲子園球場を本拠地とする阪神タイガース応援団。甲子園所属の応援団5会派が統合し、16年に発足。会員は現在40人。仲間という意味の「伍」の文字が入った旗がシンボル。応援の指揮を執るメインリーダーを中心に太鼓やトランペットの演奏、旗やボード掲出でファンの声援を1つにまとめる。ホームゲームはもちろん、全国のビジター球場でも熱い応援を届けている。