矢野阪神には、「神様」がいた。「日本生命セ・パ交流戦」の日本ハム戦で、9回に代打原口文仁捕手(29)が決勝の左越え適時二塁打を放った。今季は21打数7安打、打率3割3分3厘と好調だが、意外にも今季初打点。「代打の神様」が放った値千金の一打で、2位巨人とのゲーム差を「4」に広げた。

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研ぎ澄まされた集中力で、バットを振り抜いた。同点の9回2死二塁。原口は小さく息を吐くと、杉浦のスライダーに食らいついた。「少し詰まり気味だったんですけど、外野も前進守備で越えてくれと願いながら走りました」。願いを込めた打球はぐんぐん伸びて左翼手の頭上を大きく越えていった。今季初打点がチームを救う決勝点。一打で勝利をもたらす「代打の神様」を、ベンチの仲間たちは次々に祝福した。

8回までわずか2安打。直前の9回無死二塁では、代打坂本が犠打に失敗し、北條も空振り三振と、重苦しい展開が続いていた。「本当に最高の場面でゲームに出させていただいて、もちろん緊張はあったんですけど、思いきっていこうと思っていました」。そんな状況でも、気持ちは前向き。いつもチャンスに備える「代打の神様」を、野球の神様はしっかり見ていた。

今季はここまで出場した22試合全てが代打だが、いつも最大限の準備を欠かさない。同じく代打が続いていた糸井が「今はグッチ(原口)の行動観察をしているので。神様の」と、あがめるほどだ。もちろん、本職の捕手への強い思いも持ち続けてきた。「本当に今は出たところでチームのために活躍する、貢献する、それが一番ですね」。自分の思いは胸に秘め、勝利のためにバットを振る。

2年前の19年、大腸がんを乗り越えて1軍の舞台に戻ってきた。復帰後の甲子園初試合となった相手が、日本ハムだった。「少し時間がたつといろんなことを忘れがちになると思うけど、また野球ができている幸せを感じたり、普通に当たり前のことが当たり前にできている、そういう幸せというのは、常に持ちながらやっているつもりなので」。いつも全力で野球に向き合う姿には、そんな気持ちが込められている。

18年には、球団の代打安打記録に並ぶ23安打を放った正真正銘の「神様」。矢野監督も「もう、行くしかないというところでね。原口が、この重たい空気を一掃してくれたので。本当に助かった、本当に大きな一打。フミに助けられた試合やね」と最敬礼だ。

今季チーム最長試合となったビジター初戦で勝利し、連敗もストップ。2位巨人とのゲーム差も4に広がった。「原口様」がチームを救った。【磯綾乃】

▼原口は今季代打で22度起用され、20打数7安打、打率3割5分と好調だ。打点は初だが、安打数、打率ともヤクルト川端11安打、3割7分9厘に次いでセ・リーグ2位の好成績を誇る(打率順位は起用回数20以上の6選手中)。