阪神が投打でメモリアルなヒーローに導かれ、渾身(こんしん)の2連勝を飾った。打っては10戦連続ノーアーチだった5番大山悠輔内野手(27)が2回、先制&決勝2ランをたたき込み、球団日本人4番目のスピードで通算100号に到達。16年ドラフト同期入団で右肘手術を乗り越えた才木浩人投手(23)の1159日ぶり白星をアシストした。

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大山はペコペコと頭を下げ終えると、両手で掲げた100号パネルをわずか5秒で下ろした。

2回無死一塁。中日柳の外角143キロ直球を強振し、右中間席まで持っていった。11戦ぶりの1発は「今年目標にしていた」という通算100号。それなのに、16年ドラフト同期の後輩への感情が先に来るところが背番号3ならでは、だ。

「才木は同期で入ったかわいいかわいい後輩。先に点を取ってあげたいと思っていました。初めて会った(才木が)高校生だった時の感じを思い出しながら守っていました。なんとか手助けできて良かったです」

右肘手術を乗り越えた4歳下の1159日ぶり白星を、19号決勝2ランでアシスト。「勝ったことですべてが報われる」と胸をなで下ろす姿は、もう誰の目にも主砲そのものだ。

わずか数秒の間に天国と地獄を味わった1日から、6年近くが経過した。悔しさは晴らせたか? そう問われると「いや、まだまだです」と否定する。

「あれがあったから頑張れている部分もある。あそこで悲鳴をあげた人全員を後悔させてやるんだという感情は今も持っています」

白鴎大4年生だった16年秋、阪神からドラフト1位指名を受けた。他に目玉候補もいた中、本人も驚いたサプライズ指名。その瞬間に会場内の観客から響き渡った後ろ向きな反応は「一生、忘れることはできない」という。

「プロ野球選手になるという夢がついにかなったのに、頂点からどん底に落ちてしまって…。誰が悪い訳でもないことは分かっています。でも、あの時の悔しさは、僕が野球を引退するまで常に持ち続けていたい気持ちの1つなので」

658試合目での100号は田淵幸一、掛布雅之、岡田彰布に続いて球団日本人4番目のスピード。ただ、大台到達はあくまで長いプロ野球生活の通過点に過ぎない。

大山には今、新たな夢がある。

「あの時に悲鳴が上がって良かった、ありがとうございましたと感謝できる野球人生にしたい」

まだまだ道半ば、ということだ。

「また1つのスタート。1本1本、積み重ねていければ。たくさんの人の支えがあっての100本。そういった気持ちを忘れずに、また明日から頑張っていきたい」

満足感に浸っている暇はない。【佐井陽介】

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