敗戦の光だ。阪神才木浩人投手(23)が完全復活を証明した。20年オフのトミー・ジョン手術を経て、復帰2戦目の中日戦で6回を1失点。涙の3年ぶり勝利を挙げた前回3日の同戦と合わせ、11イニングで自責0と抜群の安定感を示した。同点の延長11回にアルカンタラが打たれて連勝が3で止まり、2位浮上も逃した。だが、再起した若武者の勇姿こそ、上位浮上を目指す反攻のシンボルだ。

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その瞬間、才木は内に秘めていた闘志を解放した。4回2死一、二塁。土田を空振り三振に仕留めると、ほえた。19年5月以来、約3年ぶりの甲子園のマウンド。盛り上がるスタジアムを味方につけ、鬼気迫る表情で87球を投げ抜いた。

「ライトもレフトも、お客さんがいっぱいいる中で投げるのは気持ちがいいし、すごく楽しかった」

降板後のベンチでようやく、23歳の素の表情になった。360度囲んだファンと一緒になり、逆転勝利を信じて先輩たちに声援を送り続けた。

「2点、3点取られると、すごくいい投手ですし、最少失点で、という気持ちで投げていた」。この日最速152キロの直球を軸に、相手エース大野雄に1歩も引かなかった。2回に味方の失策で1点を失ったが、簡単に崩れない。トミー・ジョン手術から再起した2戦目は前回より1イニング多い6回を1失点。2勝目こそ逃したが、計11回で自責0、防御率は0・00だ。189センチの大器が完全復活を証明した。

「自分としては6回に代えられてしまうところで、まだまだ力不足を感じていますし、圧倒できるような投球をしていきたい」

決して納得はしない。6回2死一、二塁では代打平田を遊直に仕留め「梅野さんのリードのおかげで粘りの投球ができたかな」。収穫も課題も肥やしにする。

この日は兵庫・須磨翔風の中尾修監督(56)が観戦に訪れていた。高校入学当初の球速は120キロにも満たず、スライダーの投げ方さえ知らなかった。才能を見抜いてくれた恩師に、高校時代は近くて遠かった甲子園で恩返しの快投を見せた。「本当に元気で投げていたんで安心しました。なかなか2年間しんどかっただけに、マウンドに立った時はうれしかったですね」。恩師も心打たれた。背番号35が投げるたび、誰かの勇気に、励みになる。

前回ヒーローインタビューで男泣きした23歳は、また1つたくましくなった。「球速も落ちて、最後は捉えられていた。自分の中ではそこらへんが悔しかったので、すぐにできることではないですけど、もっと上のレベルを目指していきたい」。この向上心があれば、もっともっと上にいける。【中野椋】

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