<SMBC日本シリーズ:ヤクルト3-3オリックス>◇23日◇神宮

記者生活30年超の高原寿夫編集委員が、日本シリーズに鋭く迫ります。

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勝てなかったが負けなかった。このドローがどう影響するかは今後の展開次第。適当だが事実だろう。9回に登板したプロ2年目・阿部翔太は誤算となったが随所に「ナカジマジック」を見た第2戦と思う。

ナカジマジック。オリックス指揮官・中嶋聡の繰り出す選手起用、采配はそう呼ばれている。この日のスタメンは第1戦と変化した。クリーンアップは同じだったが1番を福田周平に代えて安達了一を起用するなど選手の顔ぶれ、打順を入れ替えてきた。

オリックス担当記者・真柴健に言わせれば「シーズン通りですね」。オリックスは今季143試合で141通りのスタメンを組んだ。これで思い出すのはやはりマジシャン仰木彬である。90年代半ば、オリックス黄金期を作り上げた名将も同様だった。当時は「猫の目打線」と呼んだ。そして96年、巨人との日本シリーズ直前。仰木はその手法について話している。

「仰木マジック」。我々もよく使った言葉だが仰木自身がそれについて話すことはほとんどなかった。だが89年に近鉄監督として戦い、3連勝4連敗と屈した巨人との再戦に仰木をして気持ちが高ぶっていたのか。口を開いた。

「ウチは『無手勝流』やな。(作戦の)意図はもちろんあるが丸出しにはできんわ。幸いにしてこっちの(優勝決定)が巨人より早かったからな。巨人の戦いもみているし。選手を整理しているところだ」

だが決戦ではその無手勝流は飛び出さなかった。「おっ」と思わせたのは4戦目にプロ2年目のサブマリン豊田次郎を先発させたぐらいか。当時は予告先発はなく巨人側は長谷川滋利の予想だったという。この4戦目が4勝1敗で終えたシリーズ唯一の敗戦だ。

その96年、日本一メンバーだった中嶋も動く指揮官だ。先発・山崎福也を4回68球で降板させるとブルペン陣を次々に投入。山崎福はシーズン中から球数が増えると打ち込まれる傾向だ。そこに加え、24日は移動日だ。中継ぎを惜しみなくつぎ込む作戦でワゲスパックまでは成功した。

延長10回に見せた1死一、二塁で一走・西野真弘が捕手のけん制を誘って二走・小田裕也が三盗を決めた場面にはしびれた。新人王候補でもある阿部の抑え起用だけが誤算となったが、それも勝負。まだ1敗だ。熱戦は京セラドーム大阪に場所を移す。(敬称略)

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