日刊スポーツの不定期企画「虎を深掘り。」の第9回は、阪神島田海吏外野手(27)の“激レアアーチ”をピックアップする。

5日の広島戦(マツダスタジアム)で、球団史上3人目となるプロ1号の初回先頭打者本塁打。負傷離脱した近本光司外野手(28)の穴を埋める「1番中堅」として期待される男は、バットの持ち方に変化を加えていた。ミート力に加え、長打力も兼ね備えたシン・島田に迫る。【取材・構成=中野椋】

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島田が人知れず、自らの代名詞と別れを告げていた。右肋骨(ろっこつ)骨折で離脱した近本に代わり、中堅でスタメン出場した4日広島戦から、バットを長く持っている。従来は「指3、4本分」と極端に短く持っていたが、今は「指1本分くらい」。シーズン真っただ中、それも不動のレギュラーの穴を埋めるために起用されたタイミングで、繊細な感覚にメスを入れた。

先輩からの何げないひと言がきっかけだった。6月30日巨人戦の試合前。東京ドーム室内で早出打撃練習をしている時、一緒に打ち込んでいた原口に声をかけられた。「それだけバットを長く持ってポンポン捉えられるなら、試合もそれでいけばよくない?」。

もともと練習時は、バットの遠心力を感じながら体を大きく使うために、バットを長く持っていた。「試合ではその力を1点に凝縮させてバットにぶつけるイメージを持っています。練習から小さく小さくだと、出力が出ない」と意図も明確。フリー打撃で鋭い当たりを連発する姿は、日常茶飯事だ。

そもそも、極端にバットを短く持つスタイルは、自らの生きる道を模索した末、たどり着いたもの。昨季、キャリアハイの123試合に出場。その前年に2軍公式戦で打率3割4分4厘と飛躍への足掛かりをつかんでいた。「僕は大振りする選手じゃない。ミート中心で」。突き詰めた結果、確立したものだった。

一方で「長く持って操作できるなら、そっちの方がいい」とも思っていた。ミート力を維持しつつ、バットの遠心力を生かして長打も狙うことができれば-。それが理想だった。原口の言葉に背中を押され「いけるなら、いってみようかな」と決断。5日の広島戦でプロ1号となる初回先頭打者本塁打を放ち、「バットを長く持てば、遠心力を使って、より飛ばすことができる」というメリットを最大限に生かしてみせた。

近本不在の「1番中堅」を争う森下は、9日ヤクルト戦で、普段よりも指1本分バットを短く持って、プロ1号決勝弾を放った。こちらは「何が何でも塁に出たかった」とミートを意識した結果、シャープなスイングでボールをスタンドまで運んだ。

島田も森下も、数センチの違いが、大きな変化につながった。島田は「これからも自分の状態を見極めて、自分のポイントでボールを捉えられるよう、バットの持ち方は工夫していきたい」と、こだわり抜くつもりだ。細部にこそ、プロの技が詰まっている。

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