小よく大を制す。球界最年長43歳の男は、そこにプライドを持っている。身長167センチのヤクルト石川雅規投手は野球少年、少女を前に声を大にして言った。

「野球って小っちゃいから、やっちゃいけないルールないよね? 体が大きい人しか、うまくならないとかじゃないよね? 野球はね、無差別級なの。格闘技みたいに階級はないの。分かるかな?」

年の瀬の28日、石川は埼玉・入間郡にある元ヤクルトで日本ハム、横浜(現DeNA)、西武でプレーした坂元弥太郎氏の野球塾を訪れた。子どもたち約50人、保護者約30人を前にした講演会。何度も繰り返したのは「無差別級」の言葉だった。「僕は中学1年で身長137センチしかありませんでした。前ならえは、いつも先頭。でもね、関係ないの」とうなずいた。「みんなが(ヤクルト)村上みたいな打ち方をしなくていい」。親から授かりし体は、それは個性。「僕はストレートが135キロしか出ません。僕が急に身長185センチになれるわけではない。大事なことは自分の体で出来る範囲のことを知ること」。

子どもたちの表情は半信半疑。それでも、次の言葉で目は瞬く間に大きくなった。司会を務めた坂元氏が「大谷翔平君とは対戦したことありましたっけ?」と聞くと「1試合だけ。その時は132キロの真っすぐで見逃し三振」と、少しだけ得意げに言った。16年6月1日に札幌ドームで行われた交流戦。今や日本の世界のオオタニさんを手玉に取った。子どもたちの「やば」「えぐ」の言葉は、室内練習場にこだました。

近年のプロ野球界において150キロ超の投手はざらにいる。180センチ以上の選手もスタンダード。石川は背伸びすることなく、その体で通算185勝。小よく大を制し続け、プロ22年。「大きい人に負けたくないとか、もっとうまくなりたいって気持ちはずっと持ってた」。子どもたちの真剣な表情は時間を追うごとに増していった。無差別級の世界で腕を振る小さな巨人の言葉は、1時間では物足りなかった。【栗田尚樹】

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