王者阪神に死角はあるのか-。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(42)がシーズン開幕を目前に控えた25日、球界の話題を掘り下げる「鳥谷スペシャル」で大山悠輔内野手(29)、中野拓夢内野手(27)を球団史上初のリーグ2連覇へのキーマンに指名した。オープン戦最下位に沈んだ古巣の戦力をあくまで「抜けている」と高評価。「代役がいない」と表現する大山と中野の2年連続フル稼働がVのカギを握るとイメージした。【聞き手=佐井陽介】

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阪神はオープン戦を開幕9連敗から12球団最下位で終えました。ただ、オープン戦はあくまで戦力の絞り込みや調整の場に過ぎません。主力勢はまだまだ伸びしろ十分。投手陣も相変わらず層が厚く、今季も戦力はやや抜けていると感じます。球団史上初のリーグ2連覇、2年連続日本一を狙う1年。あえて不安要素を挙げるとすれば、どのような点になるのでしょうか。

個人的に少し心配しているのは「4番一塁」大山選手と「2番二塁」中野選手の代役がいない、という点です。2人は昨季唯一全143試合に出場しており、中野選手に至っては全試合フルイニング出場も達成しています。それほどの主力ですから、そう簡単に代役が見つからないのは当然です。ただ、2人のどちらかが抜けるだけでも打線の構想を大きく変更せざるを得なくなる。そこが少し気になっているところです。

他の選手であればレベルの差はあれど、同じ打順にすっぽり当てはめられる代役はいます。森下選手が任されるであろう「3番右翼」は前川選手も起用が可能。「5番三塁」佐藤輝選手にも糸原選手が控えています。絶対的な主軸である近本選手の「1番中堅」にしても、昨季途中に右肋骨(ろっこつ)骨折で離脱した期間は他のメンバーが懸命に穴を埋めようとした前例があります。ただ、「2番二塁」と「4番一塁」は現状、代役を想像しづらいと言わざるを得ません。

たとえば中野選手を使えない試合で木浪選手を2番に置いた場合、今度は昨季機能した8番木浪選手から上位打線につなぐ自慢の得点パターンが影を潜めてしまいかねません。つまり、大山選手と中野選手が離脱してしまうと、打線をいったんバラバラに解体して、戦い方を変えなければならなくなるわけです。そう考えれば、タイガースが安定した試合運びを続けるためには、大山選手と中野選手には今季も試合に出続けてもらうしかありません。

オープン戦では大山選手が下半身の張りのため、最後の4試合を欠場しました。もちろん、これは3月29日の開幕巨人戦に万全を期すためでしょう。一方の中野選手は終盤に34打席連続ノーヒットを経験した後、最後は2試合連続マルチ安打でようやくトンネルを脱出。中野選手には「どうせオープン戦なんだから打てなくても関係ないし、ラッキーだったな」ぐらいに割り切ってシーズンに入ってほしいものです。

スランプは、ずっと試合に出続ける人にとって宿命みたいなモノです。打てなければ外されるという逃げ道がない以上、自分で解決していく他にすべはありません。今回はオープン戦のうちにスランプに入ったことを「今のうちに不調時の準備ができた」とプラスにとらえればいいと思います。

中野選手は打てない期間、「どうすれば調子を戻せるか」を必死に考えたはずです。これは不調時にしかできない貴重な経験です。この財産をシーズンに生かさない手はありません。不調からの脱出方法を増やして、30打席連続ノーヒットを20打席ノーヒットに縮めるだけでも大きく違います。近本選手はもちろん、大山選手と中野選手も好不調にかかわらず試合に出続けてもらわなければ困る選手。とにかく防げるケガにだけは気をつけて、1年間チームを引っ張り抜いてほしいと思います。(日刊スポーツ評論家)