6月30日、1万500人の観衆で埋め尽くされた東京・両国国技館の中心にいたのはK-1スーパー・バンタム級王者武居由樹(22=POWER OF DREAM)だった。14年に生まれ変わったK-1をけん引してきた史上初の3階級制覇王者で、現スーパー・フェザー級王者武尊が拳の腱(けん)断裂による手術で欠場したことを受け、両国大会で開催が決まったスーパー・バンタム級世界最強決定トーナメント。優勝候補筆頭で出場した武居は1日3戦という過酷なトーナメントを有言実行で制してみせた。

大会前日まで自らがK-1を背負う覚悟を示し続け、かつてない重圧を味わったという。大会が近づくと眠れない夜が続き「過去最高のプレッシャーがあった」というが、フタを開けてみれば、3戦連続KO勝ちでの圧勝劇。00年代のK-1をけん引してきた中量級のエース魔裟斗氏が「猫のようだ」と表現する上半身の動き、下半身の柔らかいステップから繰り出される鋭いパンチとキックで圧勝した。

17年4月の第2代スーパー・バンタム級王座決定トーナメント(代々木第2体育館)で優勝して以来、約2年2カ月ぶりにメインイベントを締めくくった武居は「今、格闘技界を引っ張るすごい2人がいますが、ボクも置いていかれないように。K-1を盛り上げます」と言った。あえて名前は挙げていないが、武尊、そして「神童」那須川天心のキックボクサー2人であることは容易に想像できた。

現在のキックボクシングは国内外で団体が細分化され、世界最強が誰かを非常に証明しにくい環境にある。その中で武尊は現役ムエタイ王者ら実力者とファイトし、その「看板」にたがわぬ強さが伝わってくる強敵、難敵を次々と倒してきた。何よりマイクアピールも格好いい。「K-1最高!」の決めぜりふで会場を1つにしてしまう本格派だ。

一方、那須川は何より無敗という大きな看板がある。かつて400戦無敗と言われたヒクソン・グレイシーのような「すごく強い」という妄想をかきたて、RISEやRIZINで「どこまで強くなるんだ」という期待感を持たせる。ファンを喜ばせる「演出」的な部分も魅力。武居の挙げた2人には「強さ+α=華」という方程式が存在している。

いつも2人の存在が頭にあるという武居は「すごい選手なので、そこに並べないと意味がない。階級も近いですし、意識します」と言葉に力を込める。いずれ対戦するかもしれない、とのイメージも持っている。

「格闘家としてはいつかはやりたいかなと思いますけれど。まだまだ自分の実力では…。実力と知名度だったり…、という次元では及ばないと思います」

17年のK-1年間最優秀選手を獲得するなど実力は申し分ない。あとは武尊、那須川とは持ち味が違う「+α」が備われば、武居らしい花が咲くだろう。キックボクシング界を背負う新たな逸材として今後の進化を見守っていきたい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大会一夜明け会見でリラックスした表情を見せる武居由樹(2019年7月1日撮影・吉池彰)
大会一夜明け会見でリラックスした表情を見せる武居由樹(2019年7月1日撮影・吉池彰)