長年ボクシングを担当した記者にはショッキングだった。千代田区飯田橋にあるホテルグランドパレスが6月30日で営業を終了するという。昨年7月から営業を制限していたが、1月末にレストランなどの営業休止や縮小、2週間後の9日に閉館発表となった。

地上24階建て、部屋数458室、20の宴会場、7つのレストランにショップ。日本有数のシティホテルで皇居の近くに位置する。丸の内のパレスホテルの姉妹ホテルとして72年に開業した。

73年にはのちに韓国大統領となった金大中拉致事件の舞台になった。76年から88年までは、13年連続でプロ野球のドラフト会議も開催された。最寄り駅は九段下で靖国神社と日本武道館が近い。春は皇居や千鳥ケ淵で桜の花見帰りによるのが定番コースでもあった。

何十回では収まらない。泊まったことはないが、一番足を踏み入れたホテルに違いない。ボクシングの世界戦では数々行事がある。試合の発表に始まり、外国人選手の来日、公開練習、予備検診、記者会見、前日計量、一夜明け会見と続く。

練習はジム、健診は病院、計量は日本ボクシングコミッションなどが定番だった。残りはジムやホテル、イベント会場などさまざま。いつからかは分からないが、帝拳ジムを中心に一連行事の会場はグランドパレスがお決まりになった。

近年は井上尚弥中心に大橋ジムなどと増えていった。対戦相手や外国人役員らのホテルにもなる。時には村田諒太らの日本人選手も、試合に集中するために事前利用するようになった。

行事は必須なものに加え、試合の宣伝のためでもある。報道されることで前景気をあおり、世間の注目も増し、入場券の売り上げや視聴率アップを狙う。ビッグマッチになれば、盛大なものとなっていった。今でも報道の扱いを気にする関係者は多い。

そういえば、昨年は1回しか行っていない。ちょうど1年前の2月14日。中谷潤人の世界戦の発表だった。金びょうぶを背にした壇上で、初挑戦の喜びがあふれていた。会場には両親と兄も駆けつけ、見守っていたのを思い出す。

中谷もその後は何度も試合が延期となり、いざ決定も行事はオンラインでの開催になった。コロナ禍の苦難を乗り越え、昨年日本人唯一の新王者になったことは何よりだが、本来なら期待1番手の世界初挑戦に、戦前から盛り上がったはず。悔やまれた。

6月30日の閉館まで、もう5カ月もない。村田、井上、中谷らの世界戦発表の日や行事が、グランドパレスでまた開催される日が来るのだろうか。ランチビュッフェのカレーが無性に食べたくなった。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

世界に初挑戦する中谷潤人(2020年2月14日撮影)
世界に初挑戦する中谷潤人(2020年2月14日撮影)