米国ニューヨークの劇場街ブロードウェーにある41の劇場が9月6日まで閉館することが発表された。ブロードウェーと言えば、世界最大の劇場街で、海外からの観光客を中心に年間1500万人が訪れている。しかし、新型コロナウイルスの影響で3月中旬から公演を中止し、これまで中止期間を6月7日までとしていた。しかし、安全な形での再開を求める出演者たち、そして行政との協議の結果、中止期間をさらに3カ月先延ばしにした。

ただ、9月6日以降に再開されるか不透明だし、再開されても自粛前のように観客が戻ってくるかも分からない。そのため、人気アニメ映画「アナと雪の女王」のミュージカル版は再開されないまま打ち切りが決まったという。観客数の回復は難しいと判断したようだ。

日本でも公演の中止・延期が相次ぎ、直近の6月の公演だけでなく、稽古などの準備期間がとれないなどの理由で9月の公演も早々に中止となるなど、先行きが見通せない状況が続いている。さらに、緊急事態宣言が解除されても、かつてのような上演形態は難しいだろう。「新しい生活様式」の例に従えば、人との間隔を空ける必要があり、客席も前後左右で1席ずつ空けることが求められ、どんなに人気公演でも、観客は従来の半分以下になるだろう。

こんな厳しい状況が続く中で、公演中止に直面した出演者たちはどうしているのだろうか。動画配信などを行う人がいる中で、意外なことを始めた人がいた。ミュージカル「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「屋根の上のヴァイオリン弾き」などの東宝ミュージカルでおなじみの中堅俳優が、4月中旬にツイッターである報告をした。

「3月下旬からウーバーイーツの配達員をやっています。緊急事態宣言後、配達は飲食店や自粛している人を助ける意味でもすごく役立っている(気がする)」「配達は世間的に必要なものだと思うので、しっかりとコロナ対策をして今日も行ってきます」。

ウーバーイーツは今流行の食事宅配サービスで、その配達員をしているというのだ。新型コロナウイルスさえなければ、彼も5月から6月にかけて帝劇で「ミス・サイゴン」に出演していて、4月は稽古期間にあたっていた。しかし、自粛で公演は中止となり、新しい仕事先を見つけたが、所属する事務所によると、「契約違反なので、厳しく注意しました」という。

「ミス・サイゴン」に出演するということは、努力に加え、歌唱力で一定のレベル以上の才能がないと可能ではない。公演中止が長引くと、発表の場を失った彼のように、せっかくの才能が舞台から流出する事態も多くなっていくだろう。ここにも自粛による演劇の危機がある。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)