街で若い男女が出会う冒頭から空気、風が感じられる。中年の記者が感じたのは、懐かしく甘酸っぱいにおい…登場人物と同年代の若者なら同時代の薫りを感じるだろう。2人に自分を重ねた時点で、スクリーンに引き込まれている。

中学時代の友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本と演出を担当も、酷評されて悩む永田が、女優の夢を描く学生沙希の家に転がり込む。演劇に没頭するあまり周りが見えず、ろくに仕事もしない永田を演じた山崎賢人は、撮影の半年前からヒゲを蓄える実験を行うなど、どうしようもない男の役作りを徹底した。これまで見たことのない山崎の姿は必見だ。永田の才能を信じ、自らの夢を重ねて支える沙希役の松岡茉優の演技からは痛々しさすら覚える。

新型コロナウイルスの影響で公開延期となり、行定勲監督が全国20館の単館系劇場での公開と同日の全世界配信に踏み切ったことで、日本映画製作者連盟(映連)は映画として認めない姿勢だ。ただ同監督が「映画館と地続きになっている」と語るラストや舞台のシーンは大スクリーンで、さらに映える。山崎と松岡をはじめ俳優陣の好演含め、映画として作られた作品は映画として評価すべきだ。【村上幸将】

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