今年の米アカデミー賞で12部門13ノミネートは最多で、カルラ・ソフィア・ガスコンがトランスジェンダー女性として初の主演女優賞にノミネートされたことも話題を呼んだ。助演女優賞受賞のゾーイ・サルダナが、歌曲賞を受賞した主題歌「El Mal」を歌って踊り、ガスコンが力強く歌うシーンは、一部がYouTubeでも配信されているが、特にサルダナのパフォーマンスは圧巻だ。

物語は、優秀な弁護士リタがメキシコ全土を恐怖に陥れる麻薬カルテルのリーダー・マニタスから、莫大(ばくだい)な謝礼と引き換えに「女性としての新たな人生を極秘に用意してほしい」と依頼を受けるところから始まる。リタは足がつかず腕利きの医者を探すよう頼まれ、イスラエルのテルアビブで名医を見つけ、性別適合手術を受けたマニタスはエミリア・ペレスとしての人生を始める。

ほぼ全編にわたりリタを演じたサルダナは、主演と言っても過言ではない。声色を変えてマニタスとエミリアを演じ分けたガスコンの芝居も、自らの人生を刻み込んだであろう力強いものだ。俳優陣が役を生きて作り上げた愛、友情を超えた情があふれるヒューマンドラマ、LGBTQを含む社会と世界の問題、銃を突きつけられたようにさえ感じられるスリルとサスペンスが絡み合った物語は濃厚だ。恐怖、痛み、悲しみが胸に迫ることもあるだろうが、折々に織り交ぜられたミュージカルは尺も適度で、気持ちを軽やかにしてくれる極上のエンターテインメント…見て、損はない。【村上幸将】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)