もしや、デビュー前に、ひそかに歌とギターをやっていたのではないか? と思ってしまうほど、生見愛瑠の歌唱とギターは鮮烈だ。ライブシーンの撮影は、事前録音したものを流して振りを当てて演じる流れだったが、生見のパフォーマンスがあまりに素晴らしく、現場で歌った声を本編に採用した。ボイストレーニングとギターのレッスンを1年、続けて撮影に臨んだというが、作品の音楽をプロデュースした日本有数の音楽プロデューサー亀田誠治氏が、太鼓判を押したという才能は本物だろう。
一条岬氏の小説、三木孝浩監督、なにわ男子の道枝駿佑のトライアングルは、興行収入15億3000万円とヒットした22年「今夜、世界からこの恋が消えても」に続き2回目だが、今作で映画に単独初主演した道枝も、ひと味違う顔を見せる。それは、自らは屈指の人気アイドルながら、平凡ないち青年が大人になっていく10年間を、どこまでも平凡に演じ切ったことだ。
水嶋春人は、詩作をひそかに楽しんできたことが同級生の遠坂綾音にバレてしまう。文字の読み書きが難しい「発達性ディスレクシア」を抱えながらも、歌唱と作曲の才能を持つ綾音から歌詞を作って欲しいと頼まれ詩を書き、歌を作り時間を共にする。
生見演じる綾音がアーティストとしてデビューした一方、道枝演じる春人は町役場の職員として地元に留まり、2人の間には距離ができる。才能がある綾音の飛躍を喜びつつも、才能を持たない我が身を思い後ろ向きになってしまう…。そんな春人の心情を、アイドルオーラを消し、繊細に演じた芝居に成長が見える。【村上幸将】
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