「喝采」「北酒場」などを手がけた作詞作曲家で、歌手としても活動する中村泰士(81)が、新型コロナウイルス感染拡大による自粛の影響が依然として続くことからくる「プラス面」に言及した。

中村は12日、大阪市天王寺区のライブハウス「TAKARA OSAKA」で、無料生配信のライブを届けた。ギター弾き語りも披露。終演後には「喝采」も披露し「ギターを始めて、手を動かす。テクニックも考えるから(運動になって)体調もいい」と、充実感いっぱいに語った。

直接ふれあえるライブ会場の良さも確かにある。一方で、空間こそ共有できなくても、同じ時間を共有できる生配信が、ウイルスとの共存をはかる今、エンタメ界の核になりつつあることについて、率直な感想を求めてみた。すると…。

「いいことやと思うよ」。そして続けた。

「手の届くアイドルとかね、あれは一時的なものやと思ってる。スターとファン、発信側と受け手の距離。昔で言えば『ブラウン管』(テレビ)ね。あくまでもスターはあこがれられる存在なんですよ。きっちりそこは分けられてこそ正常やと思う。その中間に、カラオケがあるんやから」

昭和歌謡界をけん引してきた中村ならではの見解だった。あくまでも、発信する側と、受け手が立場をわきまえる“原点”へ戻れるというのだ。もちろん、それゆえに、発信者側のスターにも持論がある。

「歌い手はお客さんがいると、歌いながらこびる。それはいらない。(生配信は)エンターテインメント性を高めると思う」

最近の流れから、歌い手側に「こびるクセ」が目につくといい、中村は発信する側にも、プロとしての矜恃(きょうじ)を求める。もちろん、プロとして「歌」を発信する際の話。中村自身の素顔は、気さくそのもので、歌い手にもそのメリハリを求める。ファンサービスとは別次元の問題だろう。

その中村は、ライブハウスをめぐる思いにも持論があった。クラスターが発生し、危機的状況にあるライブハウス。「歌い手側も、きちんと発声すれば、ツバは飛ばない。安全なんです。観客も同じ方向を向いているし、しっかり距離をとれば、ライブハウスは安全なんです」と訴えた。

興行が中心となるエンターテインメントの世界。新型コロナウイルスとの共存を目指す「新たな生活様式」に戸惑っているのが現状だ。この先には「新しい普通」も生まれる。中村の話を聞き、それが結果として、原点回帰となるのかもしれない-。そう感じるとともに、救われた思いもした。【村上久美子】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)