変幻自在に役を行き来する俳優中村倫也(33)。柔和で癒やし系のイメージから一転、日本テレビ系「美食探偵 明智五郎」(12日スタート、日曜午後10時半)で、容姿端麗で変わり者の探偵を演じる。ゴールデン・プライム帯(午後7~11時)の連続ドラマ初主演。自分の役割を客観的に見つめ、全員を輝かせたいと言い切る。

★みんな輝く作品に

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、記者、カメラマン、スタッフも全員マスクをしている中でのインタビューだった。今までにない取材状況だったが、ふわっと現れた中村が現場を柔らかく一変させた。かなり距離を取って机を配置していたが、中村自ら「もうちょっと寄る?」と、話しやすく、かつ、距離も保てる場所に机を寄せた。「美食探偵 明智五郎」撮影真っただ中だが緊張は感じられない。

「クランクインした日から、この組に悪い人いないと思いました。みんな一生懸命で、優しくて温かい。一生懸命遊んでるというか、もの作りの豊かな雰囲気でのびのびやってます」

主演として引っ張る中村がそののびのびした雰囲気をつくっているのでは、と感じる。

「(主演の)意識はないんですよ。1人で意気込んだところでどうしようもないのでね…。想像力の掛け算があってこそおもしろいものが生まれるし、そうじゃなきゃ人と一緒にやる意味がないと思ってます。主演とはいえ、普段とは変わらずいつも通りやってます。気負いはないです。プレッシャーがないと言えばうそになりますけど、なるようになるさと思って生きてます」

「美食探偵-」の主人公は、御曹司で容姿端麗、グルメぶりを生かして、食をとっかかりに事件を解決する。小池栄子、小芝風花をはじめ、毎回登場するゲストも見どころだ。豪華なキャストの真ん中に堂々と立っているのだが、自分を冷静に見つめる。

「僕がやる以上、スタードラマではないです。立ってるだけで圧倒的に魅力があって引っ張っていけるタイプではなく、みんなでわちゃわちゃしている方が力を発揮するタイプ。僕が呼ばれるということは、いろんな人の素材や才能がある中に自分も入って、みんなが輝く作品にしたいなと思っています」

★ゲストにパス出し

自分を客観的に見る目で作品全体を見ている。

「台本を読む時、自分の役だけ読むの嫌いなんです。シーンの意味や、他の役がこのシーンで何を受け取ってどう変化するのかが書かれている地図をしっかり読み取って、パスを共演者に渡したい。僕がちょっとだけゲストで出る時は、エッジを立てて刺激物、箸休めにならないといけないと思っていました。主演としてゲストにもパスを出せないと、ゲストがいる意味がなくなっちゃうんです」

目指すところはシンプルに「作品をおもしろいと思ってもらいたい。自分を見せたいわけじゃない。自分はどうでもいいです」。

高校1年時、現在の所属事務所と縁があり養成所に入った。映画で俳優デビューし、今年で16年目。役に恵まれない時期も長かったが、俳優を続けてきた。「若いころはうまくいかなくて打ちのめされて、やるか辞めるかということもありました。20代中盤ぐらいで、結局好きだと思ったんです。あーだこーだ言ってないで、仕事がねえってことは自分の魅力がなくて能力を認められてないってことなのだと思って。腹が据わったのは20代後半です。ものを作ることが好きなんでしょうね。想像して形になって、みんなとやるのが好き」

腹が据わった20代後半で思い描いたことが的中した作品が、18年のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」だ。ヒロインに思いを寄せられる男性を演じて全国的な人気を得た。

「どんな作品で自分が、いわゆるブレークできるか考えたことがあったんです。データとか時代とか先輩たちのこと、いろいろ考えて『32~33歳、朝ドラで癒やし系だな』と思いました。直感でイメージしていたチャンスでした。役も魅力的でしたし、チャンスをものにできないと自分はダメだと思っていました。うれしいというより、話題にならなきゃダメだ、という気持ちでした」

思い描いていたブレークと、実際のブレークのギャップもあった。

「まさかイケメンキャラになるとは思わなかった。イケメン俳優に交ぜてもらえなくて、あの手この手で頑張ってきた僕がイケメン俳優って言われてるのがよく分からない! かっこいいと言われたらうれしいし、ありがたいです。でも(容姿端麗な)今回の役、俺だよねとは到底思えない(笑い)」

★もっと自由でいい

演じることの楽しさを知った10代、もがいた20代、ブレークを経験した30代。演じることへの取り組み方は変わってきた。

「年々適当になってきてます。昔は役のバックボーン、キャラクターをいっぱい勉強して、いっぱい想像していました。今でももちろん行いますが、結局は自分を乗せるしかない。自分の中にあるものをうまいこと濃縮して抽出するしかないので、もっと自由でいいと思ったんです。このやり方にチャレンジした結果がどうなるかは分からない。役者という道の、過程の1つという気がしてます」

役者の理想像を考えているのかと聞いてみると「サンバカーニバルのような、楽しい未来があるといいな」と笑った。

多忙を極めるが、半年ほど前にゴルフを始めた。キャンプや釣りにも興味がある。

「30代で始める趣味に、ゴルフ、キャンプ、釣りを考えたんです。最終的には、渓流釣りをして、テント張って、飯作って、火を囲んでギター弾いて、次の日ゴルフに行く。ゴルフ(のベストスコア)は102くらいです。上達が早いって言われるんですけど、90ぐらいまででいいかな。うまくなると本気になってイライラしたりするから」

「ベタな展開は恥ずかしくて嫌い」「新しいことをしたい」という言葉が出てきた取材。初挑戦してみたいことを聞くと、しばし考えた後「紅白歌合戦の司会。紅組の」という答えが返ってきた。ちょっと絵が浮かびますと言うと、すぐさま「じゃあやめた」。誰の想像をも超えたい思いを垣間見た。

エンターテインメントも困難な状況に直面している今、俳優として何ができると考えているのだろうか。

「安心、安全、いろんなものの上に成り立ってる職業。震災の時も今回もそう考えます。少なくとも僕は単純に自分たちが好きでやってるだけのこと。自分が好きで、好きなことを友達に話した時におもしろいと思ってもらいたい、その程度でいいんじゃないかな。大義名分を掲げるほど大した職業じゃないだろうと思います。アーティスト、クリエーティブっぽい職業の方はそうじゃないかもしれないけど。存在意義を見いだしてくれるのは見てくれる人。おもしろいと思ってもらえればそれでいいかなと思います」【小林千穂】

▼「美食探偵 明智五郎」で共演する小池栄子(39)

中村倫也は芝居バカです。OKをもらっても自分の演技に対してぶつくさ反省します。そんな真面目な彼の魅力は、空気のように当たり前であり、なくては困る存在になれることだと思います。倫也はよくカメレオン俳優と言われますが、相手によって変幻自在に姿を変えられることができるのがカメレオン俳優だと思います。倫也はまさにそれなのです。その理由は、決してひとりよがりでなく、きちんと相手の芝居を見て、感じているから。根底にあるものは相手役へのリスペクトなんじゃないかと思います。すばらしい俳優だとあらためて感じています。

◆中村倫也(なかむら・ともや)

1986年(昭61)12月24日、東京都生まれ。05年、映画「七人の弔」で俳優デビュー。18年、Yahoo!検索大賞俳優部門受賞。昨年、ドラマはTBS系「凪のお暇」「初めて恋をした日に読む話」など、映画は「長いお別れ」「アラジン」日本語吹き替え版などに出演。今年は映画「水曜日が消えた」「騙し絵の牙」「サイレント・トーキョー」などが控える。

◆美食探偵 明智五郎

美食家の探偵、明智五郎(中村倫也)が、食にまつわる事件や、明智との出会いを機に殺人鬼になったマグダラのマリア(小池栄子)に立ち向かう。キッチンカーで弁当を売る苺(小芝風花)が巻き込まれる。原作は東村アキコ氏の漫画。

(2020年4月12日本紙掲載)