10月期の秋ドラマが出そろった。今期もマンガ原作が多い中、「獣になれない私たち」「大恋愛」など人気脚本家のオリジナルも話題。月9ドラマ「SUITS/スーツ」での織田裕二と鈴木保奈美の27年ぶりの共演や、「黄昏流星群」「今日から俺は!!」などバブル世代を意識した作品も並ぶ。「勝手にドラマ評」36弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(シリーズものは除く)。

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フジテレビ月9ドラマ「SUITS/スーツ」
フジテレビ月9ドラマ「SUITS/スーツ」

◆「SUITS/スーツ」(フジテレビ、月曜9時)織田裕二/中島裕翔/鈴木保奈美

★★★★☆

米ドラマのリメーク。エリート弁護士と天才フリーターのバディもの。攻めっ気と精神力の鬼みたいな主人公を織田裕二がニヤけたどっしり感で演じ、随所に発想の刺激があって楽しい。中島裕翔も、天才的記憶力と経験不足がアンバランスな新参者を若々しく表現。「お前が弁護士失格なのは、本気じゃないからだ」。つかず離れずの信頼関係がきちんと絵になっているだけに、アメリカンなジェスチャーや倒置法でのジョーク、吹き替え風のせりふ回しなど、しつこい本家感は逆に覚める。15分延長がなかった3話はテンポよく見られた。ドラえもんのポケット並みに優秀なスーパー秘書ドナ(中村アン)がその他大勢な扱いで少々悲しい。

テレビ東京ドラマBiz「ハラスメントゲーム」
テレビ東京ドラマBiz「ハラスメントゲーム」

◆「ハラスメントゲーム」(テレビ東京、月曜10時)唐沢寿明/広瀬アリス/古川雄輝

★★★★★

パワハラの汚名で地方スーパーの店長に降格された敏腕が本社復帰し、あらゆるハラスメント事案を解決。「頑張れ」さえもハラスメントと言われる息苦しい時代に、悟りすぎて逆に社内自由人な秋津室長がカジュアルに突っ込む展開にわくわく。1話は異物混入事件とパワハラ、2話はパート一揆と世話ハラ。炎上フローと人間の機微を誰よりも理解していて、合理的な大岡裁きに二重三重の見ごたえがある。何も注意してもらえない方がよほど残酷で無慈悲なパワハラなのだという秋津の言葉に共感でき、「頑張れって言ってもいい?」の着地にぼろぼろ泣けた。キーキーと優等生な部下、広瀬アリスとのコンビも良く、ダークな社内政治の行方も分厚い。

◆「僕らは奇跡でできている」(フジテレビ、火曜9時)高橋一生/栄倉奈々

★★☆☆☆

「何やってるんですか」「カエルと歌ってます」。ルールや興味、対人関係に独特のものさしを持つ生物学講師の純真ワールドで、見る人によって好みが分かれそう。森の楽器っぽい音楽や、シュガーパウダー系のふんわり映像がデリケートな主人公の輪郭になっていて、「みんなちがってみんないい」の精神が満載。「カメは勝ちたいのではなく、ただ前に進むのが楽しいんです」。ささやかな種を提供して「あなたはどうですか」と“気付き”をいざなうテイストだが、抽象的に問い掛けておけば真理っぽいみたいなねらいが難解すぎて、何の話かよく分からなかった。エリート女性の手詰まり感がうまい栄倉奈々と、器が小さすぎる彼氏の展開の方が気になる。

TBS火曜ドラマ「中学聖日記」
TBS火曜ドラマ「中学聖日記」

◆「中学聖日記」(TBS、火曜10時)有村架純/岡田健史

★★★★☆

中学教師と教え子の禁断の恋。純真ゆえのルーズな先生を有村架純がエロい湿り気で演じていて、先生ごっこの不安定と、ガラスの10代の不安定が共鳴し合っていく愚かさがそこそこの格調で描かれている。先生に教えてもらった漢詩を暗記していた黒岩くんの聡明さと、雨の中の2人の暗唱はプラトニックな官能名場面だった。新人、岡田健史の手あかのついていない横顔が黒岩くんの危なっかしさと重なるだけに、体格的に中学生に見えないのが残念。普通に「高校聖日記」で良かったのでは。美しい風景をしっかり物語にする映像と、心象風景を彩るピアノ音楽の演出力。先が見える話を今後どう展開させるか注目。主演より吉田羊が目立ってしまっている。

日本テレビ水曜ドラマ「獣になれない私たち」
日本テレビ水曜ドラマ「獣になれない私たち」

◆「獣になれない私たち」(日本テレビ、水曜10時)新垣結衣/松田龍平/田中圭/黒木華

★★★☆☆

パワハラ上司、使えない同僚、優柔不断な彼氏、迷惑な血縁などの「獣」にNOと言えない過剰適応型OLの「バカになれたらラクなのに」な疲弊生活。ガッキーがいきなりのパンクファッションで反撃開始かと思ったら、3話になっても自己愛の沼で立ち往生していて話が進まず、テレ東の唐沢寿明にちゃちゃっと解決してほしくなる。松田龍平の立ち位置もよく分からない。共感はあってもあこがれがないのは私にはしんどい。「こんな人になりたい」「このチームに入りたい」「あの男かっこいい」などあこがれ要素満載だった「アンナチュラル」との差を感じる。好みは人それぞれとはいえ、野木亜紀子×新垣結衣の話題作で視聴率が8%台と「ドロ刑」を下回り、プロデューサーの責任は重い。

テレビ朝日木曜ドラマ「リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~」
テレビ朝日木曜ドラマ「リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~」

◆「リーガルV」(テレビ朝日、木曜9時)米倉涼子/向井理/林遣都

★★★☆☆

弁護士資格を剥奪されたスキャンダラスな女が、若手弁護士やペーパー弁護士をこき使いながら勝訴を勝ち取る。一匹狼でわが道を行くより、人をうまく使う方がはるかに難しいので、個人的には「ドクターX」よりこちらのしぶとさの方が好み。鉄道マニアの設定が空回り気味だが、1話はうまく機能。鉄道知識とファッション情報を組み合わせ、見たことない角度から痴漢冤罪(えんざい)を立証した。金の匂いで手のひらを返す不二子っぽさと「資格がないと人を救っちゃいけないの?」という正論に巻き込まれかいがある。ポチの林遣都と、使えるチャラ男、三浦翔平の配置もいい。2話以降は土曜ワイド劇場っぽい。

フジテレビ木曜劇場「黄昏流星群」
フジテレビ木曜劇場「黄昏流星群」

◆「黄昏流星群」(フジテレビ、木曜10時)佐々木蔵之介/黒木瞳/中山美穂

★★☆☆☆

人生折り返し地点を迎えた中高年の不倫ラブストーリー。出世争いに敗れた夫(佐々木蔵之介)はスイス旅行、妻(中山美穂)は家でハーブティー作り、清純派の愛人はお洋服もお帽子も白。バブルムーブメントとはいえ、この世界観と弘兼憲史氏独特の女性観が強烈すぎて、ラブストーリーが頭に入ってこない。スイスでロケできるほどバブルではなく、残念なクオリティーのCGをバックに「山がお好きなんですか」「エーデルワイスが見たくて」「僕もです」「あ、流れ星」。俳優陣が気の毒になった。次が気になる展開にはなっているものの、どこを楽しんだらいいのか、コツと心の置き所がまだ分からずにいます。

TBS金曜ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と~」
TBS金曜ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と~」

◆「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS、金曜10時)戸田恵梨香/ムロツヨシ

★★★★☆

若年性アルツハイマーの女性医師、尚と、バイトで暮らす元小説家、真司の10年愛。出会いから病の判明まですべて偶然で済ませる大石静先生の雑な1話になえたが、2話から病の進行と2人のきずなの一本道で分かりやすい。真司が孤児ゆえに、初めてできた“身内”を大切にする衝動に説得力があり、2人のストーリーに集中できる。楽しすぎるお祭りで爆笑しながら泣く戸田恵梨香の女優力。幸せと、自覚症状が増す不安の両輪で「余命3カ月の方がよほどいい」という苦しみも伝わってくる。彼女を励まそうと3話からムロがちょっと面白くなってきて、キメキメで恥ずかしかった1話より人間味もかっこよさも増した。富沢たけしの働きと、バックナンバーの主題歌が無双。

◆「ドロ刑-警視庁捜査三課-」(日本テレビ、土曜10時)中島健人/遠藤憲一

★★★☆☆

窃盗犯を扱う新人刑事が、大泥棒、煙鴉(けむりがらす)の助言を受けながら一人前のドロ刑になるまで。24時間テレビの石ノ森章太郎役で一皮むけた印象の中島健人。カメラにキメ顔のアイドル路線ではなく、原作の真っすぐな熱血漢でもいけたのでは。若年層向けの枠だと思えば、ダメなチャラ男という設定もなくはないが、「俺がお前を最強のドロ刑にしてやる」という遠藤憲一のまなざしが親身なお父さんみたいで、酔狂なヒリヒリ感が薄まっているのは残念。とはいえ、原作も脚本もすっきりしているので、土曜の夜にさくっと楽しむにはいい。泥棒捜査のいろはや、防犯豆知識も楽しい。煙鴉の本当のねらいと、2人の結末は興味がある。

TBS日曜劇場「下町ロケット」
TBS日曜劇場「下町ロケット」

◆「下町ロケット」(TBS、日曜9時)阿部寛/土屋太鳳/竹内涼真

★★★☆☆

3年ぶりの続編。頓挫したロケット開発のゆくえと、トラクターという新たな挑戦。町工場が大企業をぎゃふんと言わせるフォーマットのもと、競合大手とのコンペ決戦、銀行との戦い、ずるい大企業からの特許侵害のイチャモンなど、置かれたハードルはほぼ同じ。ワンパターンに苦笑しつつも、少年マンガの「努力、友情、勝利」の3要素を外さないので、つい見てしまう。イモトアヤコが味方の天才エンジニアという重要な役で登場。ものづくりへの誠実さを端正に演じ、「分からないんですか、このバルブのすごさが」から始まる1分間の涙のシーンに応援しがいがあった。お笑い勢、古舘伊知郎、福沢朗、古坂大魔王など異業種ばかりで画面が相変わらずうるさすぎる。

◆「今日から俺は!!」(日本テレビ、日曜10時半)賀来賢人/伊藤健太郎

★★★☆☆

伝説のヤンキー漫画をコメディー界の奇才、福田雄一氏が実写ドラマ化し、いつものおふざけワールド。主題歌「男の勲章」をキャストがバンド演奏し、地デジ前の映像と80年代のフォントで仕上げたオープニングがよくできている。卑怯さがキレキレの三橋と、正面突破の伊藤。空手28段、両目にばんそうこう、バンチラをガン見などのギャグ要素から乱闘シーンの一瞬の色気まで、賀来賢人と伊藤健太郎がフルスイングで演じている。1話は監督と俳優の自己満足なノリが面倒だったが、三橋が恋をした2話から少しストーリー性が出てきた。なんだかんだ女に弱い漢ぶりと、ほんのちょっとの義理人情というヤンキードラマのツボは押さえている。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)