ブラジル国民が、半世紀以上も待ち望んだ優勝だった。1950年の第1回W杯ブラジル大会で、死者まで出た敗戦「マラカナンの悲劇」から66年。14年W杯でドイツに1-7と粉々にされた「ミネイランの惨劇」も乗り越え、約6万4000人で埋まった聖地マラカナン競技場で歓喜が爆発した。

 マラカナン競技場で心から喜べる日がきた。すり鉢状の観客席に息を合わせた「カンピオン(王者)」コールが響く。ドイツには耳をつんざく指笛とブーイングを見舞い、ブラジルのセレソン(代表)は勇気づけられた。ネイマールが28メートルの先制FKを決め、1-0で迎えた後半14分に今大会6戦目で初失点。お株を奪われる好連係で追いつかれたが、集中は切れない。準決勝まで5戦21得点のドイツに追加点を許さず、PK戦でも5人全員が決めた。

 一丸となれたのは、負の歴史を清算するためだ。「マラカナンの悲劇」は50年W杯の決勝リーグ最終戦で起きた。引き分け以上で初代王者だった地元ブラジルがウルグアイに1-2で逆転負け。約20万人が詰め掛けたスタジアムで4人がショック死、自殺者も出た。

 さらに14年の「ミネイランの惨劇」。2度目の自国開催となったW杯の準決勝でドイツに1-7と大敗。W杯史上最多失点に各地で放火や略奪など暴動が発生した。このショックを引きずった南米選手権は15年が8強止まり、今年が29年ぶりの1次リーグ敗退。18年W杯ロシア大会南米予選も出場圏外の6位に沈み、五輪代表も兼ねていたドゥンガ監督が解任されていた。

 代わってミカレ監督が緊急昇格。五輪メンバーを発表した6月29日の、わずか1日前が就任日だった。15年のU-20(20歳以下)W杯でブラジルを準優勝に導いた経験から若手を熟知。ドゥンガ前監督が見守る前で初の金メダルに導いた。

 本来は14年W杯で決勝に進み、優勝して悲劇を克服するはずだった。傷口を広げてリオ五輪を迎えていただけに「この優勝で、失っていた自尊心を取り戻せた」とミカレ監督。「ブラジルは死んでいない。さらに良くなっていくと信じている」と続け、たどっていた下降線に歯止めをかけた。

 ドイツにはマラカナンの悲劇の2年後、初参加したヘルシンキ五輪で2-4の逆転負け(当時は西ドイツ)を食らった過去もある。因縁の相手に借りを返した自信が、王国の復権を担う促進剤になる。【木下淳】

 ◆ブラジル代表メンバー

 バルセロナに所属するFWネイマールを筆頭に、23歳以下のDFマルキーニョス(パリサンジェルマン)、MFフェリペアンデルソン(ラツィオ)らが欧州の強豪クラブで活躍している。FWガブリエルジェズスは今夏、プレミアリーグの強豪マンチェスターCへの移籍が決定。「ネイマール2世」と呼ばれるFWガブリエルバルボサには、岡崎が所属するプレミアリーグ王者レスターや、セリエA王者ユベントスなどが獲得に興味を示していると報じられている。