「神様は乗り越えられる者にだけ、試練を与えるんです」。これ以上ないポジティブな言葉だ。

 この表現を口にしたのは、新潟の片渕浩一郎コーチ(40)。試練を与えられ、それを乗り越えようとしているのはDF早川史哉(22)。クラブは13日、早川が急性白血病で闘病生活を送っていることを公表した。第8節名古屋戦(4月24日)後にリンパ節の腫れが確認された。精密検査の結果、急性白血病と診断された。

 以来、新潟の公式ツイッターには連日早川への励ましのメッセージが書き込まれている。新潟サポーターだけでなく、ほかのクラブのサポーターの温かいメッセージも多数ある。

 片渕コーチは、早川を最も知るスタッフ。早川が新潟U-18に所属していた09~11年、片渕コーチは新潟U-18の監督だった。

 「手のかからない子です。彼に対して声を荒げた覚えはない」。早川はU-17日本代表時代、U-17W杯の8強入りに貢献した。GK以外ならどこでもこなせるセンスと、戦術理解の早さで、新潟の関係者は将来の柱として期待している。明るく真面目な性格で人望も厚い。筑波大では主将を務めている。

 だからこそ「なんで、あいつが…という思いですよ」。片渕コーチは無念さを隠さない。病床を見舞うと、常に明るく接してくれる。大好物のヨーグルトを差し入れると、満面の笑み。「私に気を使わせまいとしている。本当に強い子」。誰もが認める『いいやつ』。そんな早川の苦難と向き合い、堂々と闘う姿はチームを1つにした。

 新潟は第15節大宮戦で今季ホーム初勝利を挙げた。決勝ゴールを奪ったMF成岡翔(32)、それをアシストしたMF端山豪(23)は試合後、涙を流した。途中交代したMF小林裕紀主将(27)は、ピッチを去りながら、込み上げてくるものをこらえられなかった。

 彼らの思いは「ピッチに立てない仲間のために」。当たり前の日常が当たり前でなくなる現実は、自分の身に降りかからなければなかなか実感できないもの。ただ、ともに汗を流す、という生活環境で結ばれた絆は、仲間の苦しみを自分のものとして受け止められるほど強く温かい。それを実証したのが大宮戦だった。

 「史哉は絶対に帰ってきます。あいつが本気で闘っていますから、僕らも共に闘います」と片渕コーチ。頑張る人たちが試練を乗り越え、その先にある喜びに浸る瞬間が訪れることを信じ、祈っている。

 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)1月12日、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。新潟はJ2時代から取材。サッカー以外にはbj、Wリーグのバスケット、高校スポーツなど担当。