昨季のJ1は、ベストイレブンに輝いた川崎フロンターレのMF三笘薫(23=筑波大出)、MF旗手怜央(23=順大出)ら、即戦力で活躍した大卒新人選手が目立った。

ルヴァン杯優勝のFC東京MF安部柊斗(23)、DF中村帆高(23)も明大から加入した1年目で先発に定着した。東京五輪を見据えた大学サッカー界の強化が、大卒新人の活躍につながっている。

三笘、安部らが大学1年時の16年から、関東大学連盟では、1、2年生の選抜チームの大会「ジール杯」がスタート。全日本大学連盟としてもU-19全日本選抜が創設された。翌17年には関東で新人(1、2年生)のリーグ戦が始まり、「東京五輪に大学連盟から選手を」を目標に、新人の全国大会「全日本大学サッカー新人戦」も新設された。全日本大学サッカー連盟の中野雄二技術委員長(流通経大監督)は「選手が伸びる場は実戦。リーグ戦で出場機会がない1、2年生に実戦経験を与えることが目的だった」と振り返る。

関東大学連盟の強化として立ち上がった「ジール杯」では、卓越したドリブルを持つ選手など「何か光るもの」がある逸材を積極的に抜てきした。法大から札幌に加入した2メートルGK中野小次郎(22)、鹿島FW上田綺世(22=法大出)もジール杯を機に飛躍していった。世代別の大学代表の海外遠征も多く組まれ、東京五輪世代の強化にもつながった。

大会運営や海外遠征には費用もかかる。日本サッカー協会(JFA)から全日本大学サッカー連盟に割り当てられる費用は年間800万円(ユニバーシアード開催年は1300万円)。プロ選手を輩出した大学は、クラブからトレーニング費用(現在はJ1・120万円、J2・80万円、J3・20万円)を受け取るが、各大学は、その費用の40%を全日本大学サッカー連盟に納め、その費用で大会を運営してきた。プロになった先輩たちが残した“遺産”が、後輩たちを強くしているのだ。

93年のJリーグ発足時は、J1は主に高卒選手を獲得し、サッカー関係者から「大学サッカーの使命は終わった」との声も漏れた。だが、大学サッカーの地域別対抗戦のデンソーカップの立ち上げで強化を図り、00年代から流通経大などの新興勢力が台頭。明大、法大などの伝統校も勢いが増し切磋琢磨(せっさたくま)しながら大学サッカーのレベルを押し上げてきた。 大学サッカーは技術向上だけの場ではない。ジール杯創設に尽力した関東大学連盟の佐藤健技術委員長(中大監督)は「大学は日本の文化」とし「(大学卒業の)22歳は、世界的に見たら遅い。でも、大学の4年間で人間関係を学んだり、地道なこともやらなくてはいけない」と人としての成長の場であることを強調する。教え子の中村憲剛氏を例に挙げ「大学の4年間で、自分が(試合に)出るためにはどうしたらいいのか、細い体でどうやっていくかを覚えた」と回想し、大学が担う人間教育の重要性を説いた。

大学サッカーの4年は、実戦経験を積み、人間的にも技術的にも成長する場。新卒選手が、プロ1年目で活躍できるのは偶然ではない。大学は「プロの回り道」ではなく「近道」になっている。

川崎F旗手(2020年2月16日撮影)
川崎F旗手(2020年2月16日撮影)
東京MF安部柊斗(20年2月18日撮影)
東京MF安部柊斗(20年2月18日撮影)