ベガルタ仙台で生え抜き9年目のDF蜂須賀孝治(30)がクラブの伝承者になる。2011年の東日本大震災から10年を迎える節目の今季、手倉森誠監督(53)や強化部に主将就任を志願し“チームキャプテン”に任命された。「『ハチがピッチにいたら大丈夫だ』と、みんなに思われるようなキャプテンになりたい」と特別な1年で職務を全うする。

蜂須賀は桐生第一(群馬)、仙台大(宮城)で主将を務め、サッカー人生で3度目のキャプテン就任だ。「僕は厳しく言うのがあんまり得意ではないので、逆にみんなの背中を押して勇気だったり自信を持たせて、チームをいい方向に進めていく方が得意だと思っている。そういう部分では自分の得意なことで、いい方向に持っていきたい」と、あくまでも自分らしく大役に向き合う。

仙台がクラブ最高順位の2位に輝いた12年、仙台大4年時に特別指定選手としてチームに加わり、翌13年に入団した。ここまでJ1通算162試合6得点。サイドを何度も上下動できる運動量と正確なクロスを武器に、不動の右サイドバックに定着し、プレー面での信頼も厚い。

チーム在籍17年目のMF富田晋伍(34)、同13年目のMF関口訓充(35)に続く3番目の古株になり「晋伍さん(富田)やセキさん(関口)だったりが作ってきた伝統というかチームの色を、そろそろおんぶに抱っこではダメだと思って(主将を)志願させてもらいました」。仙台一筋9年目で「クラブの状況やいろいろな歴史を見てきたつもりなので、新しく入ってきた選手や在籍年数が浅い選手には自分が知っていることを伝えていきたい」と両ベテランが担ってきた役割を受け継ぐ。

渡辺晋監督(47=現レノファ山口監督)時代の19年に副主将に指名され、次期リーダーとしてゲーム主将を務める機会も増えた。しかし、人一倍強い責任感が空回りし、プレーに悪影響が出た試合もある。当時、渡辺監督は「ハチ(蜂須賀)もキャプテンらしく振る舞ってくれているが、もう1回ハチらしさというものをキャプテンマークを取ってあげて、少し荷物を下ろし、のびのびやらせたい」とシーズン途中に経験豊富なDFシマオ・マテ(32)を蜂須賀と同じ副主将に配置し、ゲーム主将からあえて遠ざけた時期もあった。

年齢は30歳と大台になり、ベテランの域に突入。経験を積み重ね、満を持してチームキャプテンを務める。蜂須賀は「昨年いろいろなことがあって今年は『俺がやらないと絶対ダメだ』という使命感が生まれて、自分から志願させていただいてという動機が(19年の副主将就任時と)全然違うので、自分の気持ちだったりをいい行動に移して、チームをいい方向に持っていきたい」と力を込める。

今季の仙台は副主将を配置せず、ゲーム主将も試合によってシャッフルして蜂須賀の負担を分散させる。手倉森監督は在籍メンバーを「1人1人がしっかり自立心がある」と言えば、昨季主将のマテも「ここにいるチーム全員がキャプテンだと思う」と誰もが高い意識で日々を過ごしている。指揮官が「8季」ぶりに復帰し、蜂須賀の愛称は「ハチ」。末広がりの「8」が仙台躍進へのキーワードになりそうだ。【山田愛斗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

今季主将に就任した仙台DF蜂須賀(撮影・山田愛斗)
今季主将に就任した仙台DF蜂須賀(撮影・山田愛斗)