熊本FW巻誠一郎(35)が、被災地への思いを支えに84分間走りきった。

 熊本地震による活動停止前は、途中出場が中心だったが、チームのリーグ復帰戦となったこの日は2トップの一角で先発。攻撃の起点となるべく、集められるロングボールを頭で落とし続けた。

 前半から攻守に前線を広く走り回ったが、事前の実戦形式練習は最長で45分間。「90分間のプレーは1カ月以上ぶりだった。後半はとても苦しくて、何度も足が止まりそうになった。何度もあきらめそうになったし、何度もゴールに向かうのをやめようかと思いました」と振り返る。

 それでも走り続けたのは「熊本で家がなくなったり、苦しい思いをしている方達の顔が思い浮かんだ」からだと言う。

 「そういうのに比べたら、僕らがきついと感じることなんて、大したことではない。そういう思いが足を動かしてくれた。ゴールに向かわせてくれた。ボールに執着させてくれた。最後まであきらめずに戦わせてくれた」。

 巻は後半39分に交代で退いた。敗戦には「勝ち点3、というよりも勝ち点1でも熊本に届けたかった」と肩を落とす。「もっと言えば1ゴールでも多く。シュート1本でも多く。そういう意味では、今も無力感、むなしさもあります」。

 それでも、地震の直接的な被害、長いブランクなどのハンディを乗り越え、最後まであきらめずに戦ったチームを誇らしく思う。

 「誰も責めることはできない。みんながゴールを目指し、最後まで足を動かした。足がつっても、苦しくても、前に進み続けた。胸を張って、熊本に帰りたい。そしていい準備をして、次に臨みたい」。

 次節22日水戸戦はホーム扱いだが、本拠地のうまかな・よかなスタジアムが地震の影響で使用できないため、J1柏のホームスタジアムを借りて開催する。遠い被災地へ、エールがわりの勝利を。巻と熊本の戦いは続く。