世界の頂点へ最接近した。陸上男子100メートルで桐生祥秀(23=日本生命)が10秒01(追い風1・7メートル)の2位となった。優勝した17年世界選手権王者のジャスティン・ガトリン(37=米国)とはわずか0秒01差だった。格上相手に本来の実力を発揮できない悪癖を克服しつつある。19年世界選手権(ドーハ)、20年東京五輪へ向け、決勝進出の可能性を十分感じさせる進化を示した。

自己記録9秒74を誇る世界王者との差は、わずか10センチだった。3レーンの桐生は鋭く飛び出した。左隣を走るガトリンを「意識しないと言えばうそになる」。ただ競り合っても力まない。よどみなく体は前へ。最後は胸を突き出し10秒01。ほぼ互角の戦いは世界基準だった。「今までは9秒台を考えてこなかったが、調子がよく(スタート前から)あえて『9秒台、ベストを出す』と独り言のように繰り返していた。悔しいが、自分の走りができたのは価値がある」。東京五輪の参加標準記録も突破した。

10秒01はセカンドベストで3度目。東洋大を卒業後の最高記録でもあった。だが最も価値があるのは、ガトリンと競り合いながら、この数字を刻んだこと。過去に10秒05以内は7度。ただ重圧と無縁だった洛南高3年時の13年織田記念国際を除き、相手は大学生などだった。対照的に、この日は世界屈指の強豪が相手。普段なら、上体が反ってしまう悪癖が出そうな場面でも、その姿はなし。今までの好記録とは違い、価値ある経験を積み上げた。

2年前から模索を続けていた。世界選手権、五輪で準決勝進出経験はない。強豪を相手に力を発揮するため、海外遠征を重ねた。17年以降、出場17大会のうち8つが海外。トップレベルを肌で感じ続け自然と弱点が消えた。「23歳になり、人間的な成長もある」。メンタルトレーニングも導入。先月のアジア選手権では国際大会で初タイトル獲得した。記録以外の結果が成長を物語る。ガトリンからも「最後のスピード。そこが強み」とたたえられた。

5度目の直接対決となった対ガトリンの初勝利はお預け。「世界の舞台で決勝で勝っているのと、ファイナルに行っていない自分との差。勝てなかったことを次に生かしたい」。迫った10センチの差が大きいとも、分かっている。【上田悠太】