新型コロナ禍での開催となった箱根駅伝。テレビ放送の解説も担当した日本陸連の瀬古利彦マラソン強化プロジェクトリーダー(64)が、感染対策をとりながらの異例の大会を振り返った。

創価大の大健闘を絶賛しながら、駒大の諦めない走りにも拍手。開催へ尽力した関係者に感謝し、五輪イヤーの幕開けにスポーツの素晴らしさを見せてくれた選手たちをたたえた。

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最後の最後に、予想もしないことが起きた。10区で3分以上の差、90%以上は創価大の優勝だと思っていたけれど、まさかの逆転。これが箱根駅伝。何が起こるか分からない。展開が展開だっただけに、少し複雑な気持ちになったね。

創価大は本当に頑張った。飛びぬけた選手はいない。しかし、往路からみんなが100%の力を出した。トップは精神的に気持ちが楽で、高揚感もある。中継車が風よけになるという有利もある。選手たちは、楽しそうに笑顔さえ見せて走っていた。優勝間違いないと思っていただろうね。だからこそ、勝ってほしかった。勝たせたかった。優勝を狙って優勝するのは、意外と大変。過去の大会をみても、ノーマークから勢いに乗って初優勝したチームは多い。そういう意味でも、今年優勝してほしかったし、優勝させたかったね。

ただ、駒大もさすがだよ。監督も選手も難しいのは分かっていたはず。それでも、最後まで諦めずに追った。復路では7区と9区で2回も差を広げられた。「もうだめだ」となっても不思議ではないが、何かが起きることを信じて走ったからこそ逆転できたんだ。大八木監督は古豪復活目指して試行錯誤してきた。時代とともに選手とのかかわり方も変えた。コミュニケーションは相当とっていると思う。そんな監督の苦労を、神様は見ていたんじゃないかな。

大会前に優勝候補の1番手に挙げた青学大は往路で失速した。まさか12位になるとは思ってもいなかった。ただ、目標を復路優勝に切り替え、達成したのは見事。優勝を重ねてきているチームの底力だよ。やはり、来年も駒大、そして今年自信をつけて悔しさも味わった創価大とともに、優勝候補にあがるはずだ。

一応優勝候補とみていたチームはみな上位には入ったけれど、明大だけは残念な結果に終わった。そろって力を出せなかった。72年ぶりの優勝が見えてきて、逆に力が入った。無欲でのびのび走れた創価大とは対照的だったね。

多くのチームがバタバタしたのには、新型コロナの影響もある。シーズン通して監督やコーチの指導を受けられず、満足な練習ができなかった。夏合宿さえできないチームもあった。1人で練習をしていると、どうしても甘さが出る。自分を追い込むことは難しい。日程変更で、日本選手権が12月になった影響もある。そこに出たトップ選手にとっては、1カ月後の駅伝に合わせるのは難しかった。(1万メートル)27分台の記録を持つ選手は、ほとんど力を出し切れずに終わった。それも、予想通りにならなかった理由かな。

「箱根を制するものは山を制す」って、5区のテレビ解説で言っちゃった? そりゃ、間違いだ。「山を制するものは箱根を制する」だよね。いや、そこは分かってよ(笑い)。

10月の出雲駅伝中止で、誰もが箱根も難しいかと思ったはず。ただ、我々としては選手たちの発表の場をなんとか確保できないかと思っていた。選手たちの頑張りに、周りの人や関係者に努力していただいた。仲間がゴールで出迎えできない、スタッフの数も限られるなど徹底した感染対策で、確かにいつもとは違う寂しさもあった。でも、選手は走れることに感謝していた。私も開催に尽力した方々に感謝しているし、ご苦労さまでしたと言いたい。

もちろん、今の状況で開催に反対する意見もある。放送でもずいぶん呼びかけたけれど、沿道には観客が集まった。それに対する批判もあるだろう。ただ、多くの人が閉塞(へいそく)感を抱えながらも家のテレビで「スポーツっていいな」と思っていただけたと信じたい。いろいろな考えがあるのは分かるが、箱根駅伝が他のスポーツにつながり、東京五輪にもつながればと思う。やりきったことが次につながる。やらなければ、何もつながらない。この大会が五輪イヤー、2021年の幕開けになったと僕は思っています。