伊藤華英のハナことば

ここでオリンピズムを感じてほしい/伊藤華英

日本オリンピックミュージアム開館から、早いもので1年がたった。

山下泰裕JOC会長と筆者(写真:アフロスポーツ/JOC)
山下泰裕JOC会長と筆者(写真:アフロスポーツ/JOC)

昨年9月14日にオープン。私も完成前からいろいろな側面で協力させて頂いたこともあり、感慨深かった。あれからあっという間に時間がたったように感じる。

オリンピックムーブメントの発信拠点として作られた。コンセプトは「みんなのミュージアム」。オリンピズム(オリンピック精神)を自身で体験、体感したアスリートと、日本オリンピック委員会(JOC)、来館者が一緒にムーブメントを作りあげる場所だ。

JOC主催のムーブメント事業はさまざまなことが行われているが、以前はその拠点となる場所がなかった。そういった意味でも、ここはアスリートやスポーツファンだけでなく、多くの人が「オリンピック」を感じられる場所になっている。

たとえば「オリンピック・パラリンピックの歴史や意義を知り、オリンピックとは何かを来館者が自ら考え、体験し、学ぶことができる展示や映像」「オリンピアン自身が運営・企画へ参加し、オリンピアンと国民とのコミュニケーションか活動の場として活用」「オリンピック研究の活動拠点として、オリンピックに関わる研究・教育機関との連携による学びの支援・研究・教育の推進」などが主な特徴となっている。JOCのウェブサイトにも記載がある。

オリンピックについて知ること、体験したアスリートから直接話を聞くこと。私はとてもおもしろいと思う。このコロナ禍の状況で止まってしまっているものも多いが、少しずつ動きだしていければと願っている。


「オリンピック」と聞くと、「金メダル!」と答える子供たちが多い。

小学校を訪問したり、さまざまな子供たちと話していて感じるが、一番のイメージは「メダル」、つまり「勝利」なのだろう。しかし、オリンピズムを知っていくと、そのイメージは変わるかもしれない。


なぜオリンピックが作られたのか。「近代オリンピックの父」と呼ばれたフランス人のピエール・ド・クーベルタン男爵が「スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍などさまざまな差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」と提唱したのだ。

有名な言葉がある。1908年ロンドン大会で「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」と語った。これは、戦うな、勝負するなということではなく「人生にとって大切なことは成功することではなく努力すること」という意味だった。


私は現役時代、オーストラリア人の同じ種目の友人に助けられた。オリンピックで泳いだ後、「メダルが取れなかったから意味がない」と落ち込んでいたら、「4年間私たちは頑張ったじゃない。こんなに努力して、ここまでこれた。私は自分を誇りに思うよ」と言われた。この言葉は今も忘れられない。「努力って誇れるものなのだ」と私は初めて知った。海外の選手に言われたことにも衝撃を受けた。「ライバルじゃないの?」。こんなすてきな考え方を、たくさんの人に知ってもらいたいとも思った。これもオリンピズムの1つなのだろう。

日本オリンピックミュージアムには11月1日まで、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の聖火が展示されている。私もこの聖火を見たとき、ほっと優しい気持ちになった。現在は事前予約制だが、ぜひここにきて本当のオリンピックの意味を感じてもらえたらと思う。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)

競泳界で「美女スイマー」として活躍し、北京、ロンドン五輪に出場した伊藤華英さんが、水泳に限らずさまざまなスポーツの魅力をアスリート目線でお伝えします。
 ◆伊藤華英(いとう・はなえ)1985年1月18日、埼玉県生まれ。01年世界選手権で初の日本代表入り。08年北京五輪で背泳ぎ2種目出場、12年ロンドン五輪で自由形リレー2種目出場。12年秋に現役引退。順大大学院博士後期課程修了。日大非常勤講師。173センチ。

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