4月の世界ジュニア選手権で優勝した米国の17歳イリア・マリニンが、前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ=4A)に世界で初めて成功した。

フリー冒頭で挑戦。緩やかな助走から前向きに鋭く踏み切ると、しっかりと右足で着氷した。演技後は笑顔で、得点を待つ間にガッツポーズ。公式記録のジャッジスコアには、基礎点12・50の明記に続き、ジャンプ成功を意味する「GOE(出来栄え点)プラス」の1・00点が加点された。

日本が明治時代の1882年、シングルアクセル(1回転半)初成功から140年。歴史の扉が開いた。

前日のショートプログラム(SP)は6位。4回転ルッツで転倒するなど71・84点と不本意な発進だったが、巻き返しを狙うフリーで世界を驚かせた。

2月の北京オリンピック(五輪)でも、冬季大会2連覇王者の羽生結弦(27)がフリーで挑んだ。回転不足で転倒したものの、国際スケート連盟(ISU)公認大会では初の「認定」を受けていた。

マリニンは歴史を塗り替えた。初の「成功」。ISU公認のチャレンジャー・シリーズで「4AのGOEプラス」を刻んだ。今季の競技会自身初戦で決めた。4回転ジャンプ全6種類の中で唯一、成功者がいなかった大技がついに現実のものとなった。

演技が終わると笑顔を見せ、大歓声を浴びた。得点を待つ間も観客席に向かってガッツポーズ。フリー185・44点の合計257・28点で逆転優勝も飾った。

4Aのほか、次に基礎点が高い4回転ルッツ2本チャレンジや最後の3回転ルッツ-トリプルアクセル(3回転半)の連続ジャンプ成功など、異次元の高難度構成で沸かせた。

新時代の象徴だ。インスタグラムのアカウントを「quadg0d(4回転の神)」とするほどジャンプに自信を持っており、これまでも練習で4回転半に着氷した動画をたびたびアップしていた。

今年7月に初来日した際のアイスショー「ドリーム・オン・アイス」では練習中に4回転半を何度も降りており、その後の滞在中も連発。日本のスケート関係者を騒然とさせていた。

両親は、ともに2度の五輪出場歴があるロシア生まれのウズベキスタン選手。母タチアナ・マリニナさん(49)は4大陸選手権やグランプリ(GP)ファイナルで優勝、父ロマン・スコルニアコフさん(46)は長野五輪19位やNHK杯4位などの成績を残した。

2人の下に米バージニア州で誕生したマリニンは、幼少期から両親の英才教育を受け、今年1月の全米選手権で2位。後に北京五輪で金メダルを獲得するネーサン・チェンの次につけたが、同五輪の米国代表にはシニアの実績不足から選ばれなかった。

26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ、新たなスタートとなった昨季の世界選手権でSP100点超え。世界ジュニア選手権では合計276・11点のジュニア世界最高記録を樹立した。シニア転向後の今季初戦でいきなり4A成功の偉業を遂げた。【木下淳】