平昌パラリンピックの開閉会式会場は、選手村から車で約10分の場所にありました。開閉会式では大会に参加する600人弱の選手が、関係スタッフとともに一斉に移動します。集中を避けるため各国選手団は時間差で宿舎を出発して、バス乗降場に向かい、8台並んでいるバスに到着順に乗り込み、随時出発します。

 驚いたのは8両中6台のバスが車いすで乗降できるリフト付きバス。つまり、全体の7割強がアクセシブルタイプのバスでした。おかげで待ち時間も少なく、予想以上にスムーズでした。帰路も式の途中で選手村に戻れるサービスがあり、午後8時からの式に出て、同9時すぎには選手村に戻った選手がいたほどです。

 私は感心する一方、「東京は大丈夫か」と心配になりました。夏季大会の出場選手は4300人を超え、冬季の7倍以上。さらに選手村のある晴海から、新国立競技場までは片道20~30分はかかります。1台の往復時間は乗降を含め約90分。いったい何百台のバスが必要になるのか。想像すると、ゾッとしました。

 そもそも日本にはアクセシブルのバスが非常に少なく、リフト付きのリムジンバスも数台だけです。非効率で経費がかかるのが理由です。路線バスで普及しているノンステップバスは、高速道路上は走れません。車いすの選手は全体の3割ほどですが、チームで一緒に移動するので、スムーズな輸送にはかなりの割合のアクセシブルのバスが必要になります。平昌を参考に、柔軟な議論をしてほしいと思います。

 私も現役時代に開閉会式で長時間、バスを待たされて、イライラした経験が何度もあります。1時間前後の行進のために、3、4時間も前に選手村を出て、戻るのに2時間もかかったこともあります。だから試合を控えた多くの選手が欠席します。参加したくないわけではなく、試合前に心身の負担が大きいから出られないのです。

 平昌大会で「一番印象に残ったのは」と聞くと、「開会式」という選手が少なくありません。輸送をスムーズにして、待ち時間などの負担を軽減すれば、参加者はきっと増えると思います。あと2年。難題は山積みですが、あらためて選手や元選手の声を吸い上げ、アスリートファーストの視点で正確なニーズを把握して、官民一体となったもう1歩踏み込んだ準備が必要だと思います。

 

 ◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。45歳。