15歳の新星が、東京パラリンピックに前進した。男子50メートルバタフライ(運動機能障害S5)で日向楓(ひなた・かえで、宮前ドルフィン)が日本新を連発。午前の予選で35秒89と自身の持つ36秒69を大幅に更新すると、午後の決勝ではさらに35秒78まで伸ばした。派遣基準記録35秒14突破こそ逃したが、24日の代表選考委員会を前に実力と勢いを猛アピールした。

衝撃的なスピードだ。生まれつき両腕がない日向が頭から一直線にプールに突っ込む。浮き上がりで障害の軽い選手たちの前に出ると、ぐいぐい加速。そのまま思い切り頭を突き出してゴール板にぶち当たった。

腕のかきが大きな推進力になるバタフライだが、日向にはその腕がない。武器になるのは食事も、勉強も、スマホの操作も自在に行う足。恵まれた柔軟性で体をうねらせながらキックを打ち込む。シンプルながら斬新で、美しい泳ぎが魅力。「体の使い方、泳ぎの特徴を見てほしい」。15歳は胸を張って言った。

小学校1年で水泳を始めた。中学に入ってからは国内外の試合で活躍し、19年3月に初めて日本記録43秒42を出した。以来、泳ぐたびに自己ベストを更新、わずか2年で8秒も日本記録を縮めた。「ここまで伸ばせると思っていなかった」と言いながらも「世界に近づけたと思う」。今春、神奈川の県立高に入学したばかりの1年生の視野に、パラリンピックのメダル獲得が入ってきた。

「持久力をつけて、後半強くなりたい」という日向の究極の目標は「イルカになりたい」。無駄のないなめらかな全身の動きで圧倒的な泳ぎをみせる海のスピードスター。確かに、日向の泳ぎはこれまでのバタフライというよりも、イルカに近い。派遣基準記録突破ならず代表入りは24日の選考委員会まで持ち越されたが、夢のパラリンピック出場は濃厚。イルカになった少年が、東京大会で世界中を驚かせる。